著者:成瀬 勝
ページ数:40
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盆地の町T市で自動車会社のディーラーをしている新山亘は、ある日、麓の営業所での仕事が遅くなり、深夜にT市にある自宅に向かって峠越えの道を運転していた。街灯は一つもなく深い森が鬱蒼と続いている道だった。
峠の頂上からT市の隣町のA町に向かって下り始めたところに、若い女が真っ暗闇の中を一人でふらふらと歩いていた。通り過ぎるのも気が咎めた亘は車を止め、二十代後半とおぼしきその女に向かって送ろうかと声をかけた。すると感謝して乗ってきたが、助手席のドアは女が触りもしないのに勝手に開き、かつ閉まったように見えた。エンジンキーを捻ってもなかなかエンジンがかからない。女が微笑みを浮かべた途端にエンジンがかかり、亘は気もそぞろに発進した。女は「峠の向こう側」から来たが、帰るところはないという。
A町にある、渓流を挟んでとんがり屋根の家が二つ連なり、その間に吊り橋がかかっている屋敷に導かれるが、女はその家をじっと見つめ、恨めしそうな上目遣いで目に涙をためている。亘はその家で女を降ろすが、門の前で女は崩れ落ちてしまう。亘は家の呼び鈴を何度も押すが、女によればその家に人はいないという。
亘は仕方なく女をT市に連れて行き、駅の近くのビジネスホテルで降ろそうとするが、お金がないと言うので、駅前の交番でお巡りさんに頼れと言ったところ、亘の家に泊めてくれと言われる。亘は近い将来結婚したいと思っている彼女がいることもあって、断るが、泣かれて降ろすこともできないので、渋々一人暮らしの借家に連れて行く。名前を聞くと、中林真弓と名乗った。
亘は自分は車の中で寝るから真弓に家の中で寝るように配慮するが、彼女は固辞し、亘にいつも通り寝てくれるよう頼む。亘は煎餅布団に横になり、眠りに落ちるが、いつの間にか真弓が掛布団に潜り込んできて身を寄せる。
亘は夢を見るが、目に映る景色は純西洋風の広い豪華な居間だった。男が真弓をソファの上に押し倒して馬乗りになり、その首に手をかけて締めると女は徐々に脱力していく。亘は絶叫して金縛りから脱して起き上がるが、目を凝らすと、部屋のすみにぼうっと真弓の青白い影が浮かび上がった。彼女はそろそろと立ち上がり、玄関に向かっていく。彼女は鍵のかかった玄関のドアを素通りし、去って行った。
亘は週末の土曜日の昼過ぎ、ガールフレンドと会い、A町にあるとんがり屋根の家に行く。掃出し窓からのぞいて見えたのは、まさしく夢の中に出てきた惨劇の部屋だった。何の用だという低い男の声がし、見たことを人に言うと命はねえと脅される。
ひと月もしないうちに、亘は仕事の事情であの峠道を再び通らなければならなくなった。
すると峠の頂上をを越えたところに、再び中林真弓が歩いていた。亘は恐怖のあまり、女を追い越して加速するが、女が後から走ってくる気配がした。それは顔に血色が全くなく、目も口も裂けたかのように広がった悪鬼の形相の女だった。
女は亘の車に追いつき、助手席のサイドウィンドウに取りつきながら恐ろしい速さで横向きに走っていた。亘の顔を血走った目でにらむと、地の底から湧き上がってくるような、どすのきいた低くかすれた声で「なぜ止まらない?」とうなるように言った。女の両腕が閉めたサイドウィンドウ越しにのびてきた。半狂乱で反対側に急ハンドルを切った亘の車はガードレールを突き破った。そこで亘が見たものは・・・
峠の頂上からT市の隣町のA町に向かって下り始めたところに、若い女が真っ暗闇の中を一人でふらふらと歩いていた。通り過ぎるのも気が咎めた亘は車を止め、二十代後半とおぼしきその女に向かって送ろうかと声をかけた。すると感謝して乗ってきたが、助手席のドアは女が触りもしないのに勝手に開き、かつ閉まったように見えた。エンジンキーを捻ってもなかなかエンジンがかからない。女が微笑みを浮かべた途端にエンジンがかかり、亘は気もそぞろに発進した。女は「峠の向こう側」から来たが、帰るところはないという。
A町にある、渓流を挟んでとんがり屋根の家が二つ連なり、その間に吊り橋がかかっている屋敷に導かれるが、女はその家をじっと見つめ、恨めしそうな上目遣いで目に涙をためている。亘はその家で女を降ろすが、門の前で女は崩れ落ちてしまう。亘は家の呼び鈴を何度も押すが、女によればその家に人はいないという。
亘は仕方なく女をT市に連れて行き、駅の近くのビジネスホテルで降ろそうとするが、お金がないと言うので、駅前の交番でお巡りさんに頼れと言ったところ、亘の家に泊めてくれと言われる。亘は近い将来結婚したいと思っている彼女がいることもあって、断るが、泣かれて降ろすこともできないので、渋々一人暮らしの借家に連れて行く。名前を聞くと、中林真弓と名乗った。
亘は自分は車の中で寝るから真弓に家の中で寝るように配慮するが、彼女は固辞し、亘にいつも通り寝てくれるよう頼む。亘は煎餅布団に横になり、眠りに落ちるが、いつの間にか真弓が掛布団に潜り込んできて身を寄せる。
亘は夢を見るが、目に映る景色は純西洋風の広い豪華な居間だった。男が真弓をソファの上に押し倒して馬乗りになり、その首に手をかけて締めると女は徐々に脱力していく。亘は絶叫して金縛りから脱して起き上がるが、目を凝らすと、部屋のすみにぼうっと真弓の青白い影が浮かび上がった。彼女はそろそろと立ち上がり、玄関に向かっていく。彼女は鍵のかかった玄関のドアを素通りし、去って行った。
亘は週末の土曜日の昼過ぎ、ガールフレンドと会い、A町にあるとんがり屋根の家に行く。掃出し窓からのぞいて見えたのは、まさしく夢の中に出てきた惨劇の部屋だった。何の用だという低い男の声がし、見たことを人に言うと命はねえと脅される。
ひと月もしないうちに、亘は仕事の事情であの峠道を再び通らなければならなくなった。
すると峠の頂上をを越えたところに、再び中林真弓が歩いていた。亘は恐怖のあまり、女を追い越して加速するが、女が後から走ってくる気配がした。それは顔に血色が全くなく、目も口も裂けたかのように広がった悪鬼の形相の女だった。
女は亘の車に追いつき、助手席のサイドウィンドウに取りつきながら恐ろしい速さで横向きに走っていた。亘の顔を血走った目でにらむと、地の底から湧き上がってくるような、どすのきいた低くかすれた声で「なぜ止まらない?」とうなるように言った。女の両腕が閉めたサイドウィンドウ越しにのびてきた。半狂乱で反対側に急ハンドルを切った亘の車はガードレールを突き破った。そこで亘が見たものは・・・
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