著者:吉田雅彦
ページ数:238
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文系×理系、経営学×工学、バリューチェーン×工業技術で企業を理解する
リクルート中の学生、行政職・金融職など、幅広く企業研究をしなければならない人に最適の入門書
各企業の価値創造と社会貢献の源泉は?
文系・理系の智恵を振る活用する、まったく新しい企業分析の視点
[目次] はじめに
第Ⅰ章企業と産業
第1節企業と産業―企業研究と業界研究は両方とも必要―
第2節産業
第Ⅱ章バリューチェーンと職種
第1節バリューチェーン
第2節バリューチェーンの例
第3節職種―企業内のバリューチェーンの機能分担―
第4節バリューチェーンの一部に特化したビジネスを行う業種
第5節日本の主要企業とバリューチェーン
第Ⅲ章工業技術の概要
第1節企業と工業技術
第2節工業技術の歴史―工業技術の概要を知るために―
第3節工業技術のソフトインフラ
第Ⅳ章生産技術
第1節作業工具
第2節材料と材料加工
第3節工作機械
第4節電気
第Ⅴ章情報技術
第1節情報技術への偏見・誤解と正しい知識
第2節コンピュータ
第3節デジタル情報
第4節ロボット
第5節AI
第Ⅵ章計量、品質管理
第1節計量
第2節品質管理
参考文献/索引/謝辞
はじめに
本書は、文系で学ぶ学生や、文系学部を卒業して行政職、金融職などに勤務している方々が、企業を調査研究する方法を学ぶための入門書である。
本書がとりあげる企業研究とは、就職活動や仕事の必要などに応じて、対象企業の概要、事業、顧客、市場を調査し分析すること1)である。本書はそのために必要な視点と方法を提示する。
就職活動・転職活動で、気になる会社の情報や、自分が応募する職種にどのような知識、経験が求められているのかなどを調べる必要に迫られたり、行政に就職して商工担当部署に異動したり、金融機関に就職して支店勤務で工業が盛んな街に赴任したりして、仕事の一環として企業を調査研究する必要に迫られる場合がある。
本書は、文系学生や文系卒業生で製造業や商社等での勤務経験がない読者に対して、企業研究をするための基礎知識を、漏れなく、体系的に、かつ、理論的に紹介することを目指している。理論的に紹介しようとする理由は、理論は、実務経験が少なくても学べば理解できるからである。
実際、大学で学生に教えるときに、例えば、経済学の理論は、かなり難解であるにもかかわらず、コツをつかむとどんどん理解が進み、若い頭脳はすごいなあと思わされる。それなのに、時事問題で、日本経済新聞などの経済記事を読解させると、ふうふう言って苦労している。
一橋大学の楠木建教授は、授業でのエピソードとして「ある学生が手を挙げて『先生、もっと抽象的に説明してもらわないとわかりません』と言いました。こちらとしては具体的な例を使って説明したほうがわかりやすいだろうと思って講義をしていたのですが、実務経験がない学生にビジネスの具体的なことを話しても、いまひとつリアリティがない。抽象レベルで理解すれば、ビジネスの実際を肌で知らなくても本質がつかめるはずだ、だからもっと抽象的に説明してほしい、というのがこの学生のリクエストでした2)」と紹介している。
実務経験がない場合には、理論や抽象の方が頭に入りやすいことは、実務家がそうでない人に対して何かを説明しようとする際に気をつけなければならないことかもしれない。
経営学を実務に応用するときは、①顧客(ターゲット)は誰か、②顧客にとっての価値(バリュー)は何か、③企業の事業遂行能力(ケイパビリティ)はどうか、④どう黒字化するか(収益モデル)という企業の仕事の流れに沿って考える3)。本書は、[図0-1]のように、企業の仕事の流れに沿って経営学の理論に基づいて企業の調査研究の基礎知識を修得できるように、以下の考え方で構成している。
第一に、企業は、さまざまな顧客に様々な価値を提供している。顧客や提供する価値は、同じ産業の企業同士では似ている。第Ⅰ章で、主な産業の概要を紹介する。漏れなく産業を紹介するために、日本標準産業分類(総務省)に準拠した。
第二に、企業の競争力を決定づける事業遂行能力は、企業を支える人材、技術などの経営資源(リソース)と、日々の事業活動(オペレーション)から成り立っている4)。事業活動の工程を機能別に表したものがバリューチェーンである5)。本書では、第Ⅱ章1、2節で、バリューチェーン理論を紹介し、3節で、バリューチェーンの機能を分担する専門的な人材集団・職業群である職種を紹介している。文系学生が就職して社会人になると、文系学生が就きやすい職種の専門家に育成されていくことが多い。漏れなく職種を紹介するために、職業分類表(厚生労働省)に準拠した。
第三に、工業技術は、経営資源の重要な構成要素で、企業、産業によって特色がある。製造業や専門商社などは、工業技術によってビジネスモデル・収益モデルが成り立っている。企業、産業を理解するためには、文系であっても、最小限の工業技術の知識が必要となる。第Ⅲ~Ⅵ章では、企業を学ぶための工業技術の基礎知識を紹介している。工業技術の基礎知識の定番とされる工業高校の教科書の内容に加えて、公開鍵暗号、AI(人工知能)なども紹介し、必要な知識修得に漏れがないよう努めた。第Ⅲ章の初めに、企業と工業技術の関係を示す表を示したので、興味ある企業・業種に必要な工業技術に絞って学ぶこともできる。
文系学生や文系卒業生の社会人が、就職活動や仕事のために企業研究を行うための方法論は、これまで明確には提示されてこなかった。著者が1984~2015年の31年余り勤務した経済産業省では、文系卒業生が何らかの業種を担当する部署に配属されると、書籍、業界団体の報告書、企業の社歴、Webサイトなどで企業研究、業界研究をする。企業支援の担当者は、企業に出向く前に、企業の社歴、Webサイトなどを見たり、日刊工業新聞社の「トコトンやさしいシリーズ」や、ナツメ社の「図解雑学シリーズ」などを購入して、訪問先企業の工業技術を勉強している。そうしないと、企業の経営者や社員とコミュニケーションが取れないし、工場を見せてもらったとしても、何をしているかわからないからである。
著者は、2016年以降、大学のキャリア形成の授業などで、文系学生が企業研究をするための基礎知識を教授している。工業高校の教科書は優れているが、文系学生のニーズに合わせて作られてはいない。企業を知るためには、工業技術の知識だけでなく、ビジネスの知識も必要である。授業での試行錯誤を経て、文系学生・卒業生向けの企業研究には、[図0-2]のように、経営学・マネジメントと工業技術の基礎知識のそれぞれの一定部分の知識が必要であることがわかった。
数学や物理学の訓練を受けていない文系学生・卒業生が、高度な工業技術を理解することは困難である。しかし、企業研究に必要な工業技術の知識には一定の範囲とレベルがあるので、本書の第Ⅲ~Ⅵ章で効率的に漏れなく修得すれば対応可能である。経営学・マネジメントの中の必要な知識は、経営学部以外の文系学生でも、教材で学修すれば理解できる。
本書は、企業研究に必要なマネジメントと工業技術の基礎知識を紹介する入門書という性格に徹している。さらに深く学びたい人のためには、テーマに応じて推薦図書を紹介した。本書が、文系学生・文系卒業生にとって、企業研究に必要な知識を効率よく学ぶために有効に活用されることを願っている。
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