著者:宮下裕至
ページ数:83

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 まず私が勝利至上主義を無くす闘いに挑もうという考えに至った理由からお伝えしたいと思います。私がここまで生きてきた経験を通し感じることとして教育やスポーツの指導現場においてスポーツの意義がまだまだ正しく理解されていないと感じております。

 スポーツは本来人間形成をする為の重要な役割を持つものであり『結果や勝利を目指し真剣に取り組む過程で人間形成を成し遂げる』ものだと思っております。

 日本のスポーツは戦後軍隊の兵士教育として生まれ絶対服従を良しとしてきた歴史から時が進むにつれプロ化が進み賭け事の対象になるように変化しはじめ、どんどん勝利のみへの欲望が顕著化されていったようです。今では子供のスポーツ環境にも勝てば手段を選ばない『勝利至上主義』が根強く蔓延っています。

 それはそれとしてではなぜ私がその世界を変えなくてはいけないと思ったのか。そこに至るまでの経緯を詳しく説明します。

 今思えば私は子供のころからスポーツって「勝てればそれで良し」だと思って育ってきました。なぜかというとそのような環境が当たり前で、その他の価値観を知る余地もありませんでした。部活動では強い奴はスター、弱い奴は監督から相手にされないというのはどこを見渡しても同じ環境でした。『強くなれるなら何をしてでも・・・』という価値観がほとんどでした。

 私自身大学まで体育会でバスケットボールをしていて、時には殴られることもありましたが、殴られると逆に監督やコーチから期待されているんじゃないか?という嬉しささえ覚えていたことも記憶にあります。今では全くもって非常識な考え方ですが、このように暴力は常態化すると教わる側の認識も麻痺させる一面も持っています。

 もちろんその中でもなんとか這い上がり、努力をし続けたから結果を残すことができたという一面もあります。それが逆に殴られても結果を残した自分を否定したくない感情に陥らせ、暴力を生む要因になるのではないかという疑問を持ち始め、さらに自分の経験、体験を通して大きく価値観が変化し、そのような間違った方法では人間は育たないという結論に達しました。

 そもそも私自身何でこんなにスポーツマンシップが軽視された指導がスポーツの指導現場で許されるのかと最初に疑問に感じるきっかけになったのは我が子がとあるスポーツのチームでプレーをするようになった時でした。

 チームでは姉妹2人ともキャプテンになるのですが、なぜかキャプテンになるとこのチームはキャプテンへの嫌がらせが始まるチームでした。その原因はその地位に対するひがみからなのかもしれないです。少なくとも大人はその事実を受け入れて子供達を正しい道へ導いてあげる役目があると思ってました。

 しかしコーチたちは自分の内外の利害関係を考えいじめを毎回隠蔽していました。ですから、まさかそこまでの事になっているとは夢にも思わず、親としてももっと早く気づいてあげられなかったことに対してこの上なく悔しい思いをしたのを今でも鮮明に覚えてます。

 隠蔽する意味も分かりませんし、そんなに楽しくもない、成果も出ないスポーツをやり続ける意義も見いだせませんでした。それにしてもこういった監督・コーチ陣の対応が大人としてスポーツマンとして果たして正しい指導なのか?今でもその当時の事は疑問に感じております。
 
 私が「フジスポーツクラブ」という体操教室を運営する会社を引き継いで経営をすることになった2015年当時フジスポーツクラブは体操競技で全日本団体2位となるような強豪クラブでした。あくまでも成績上ですが・・・。

 ところが外部から来た私は直感的に何か不穏な空気を感じ取りました。いろいろ調査したところ、選手コースにおいては過去に暴力や無視などのパワハラをするコーチが数名いて、しかも未だにパワハラ行為や無視などが日常茶飯事で起こっていたことが発覚しました。

 直ちに本格的に調査をし、事実確認した後に3年間かけて当事者達と話し合いを重ね、さらに改善を1年ほど促しましたが、一度も反省をすることなくまた改善も見込めなかった為、やむを得ず私から当事者たちには退職してもらうよう命じました。

 その後、当時「勝利」を何よりも大切にしていた保護者の方々からの当クラブへの反発や退職した者達によるデマなどにより、関係者による反体制が出来上がり見えない圧力がかかるようになりました。

 それにより罪のない自社職員や子供達への影響が出ないようにいろいろ対策を考える日々が3年ほど続きました。正確に言うと今でも思うことはありますが、以前より気にすることはなくなりました。

 このような環境の中で最初反対する人たちへの不信や苛立ち、反撃の気持ちがなかったといえば噓になりますが、3年という長い時間をかけていろいろ考えた続けた結果、そのような事をやられた相手に対し、自分自身やり返すような気持ちを持っていても結局何も変わらないし、世の中の誰も喜ばないということにやっと気づきました。

 今思うと非常にもったいない時間でしたが、それでも自分でそれに気づくことができたのは私としては良い経験だったし、必要な時間だったと思います。

 そして私が会社に来てから調査した中で多くの選手コースの子供達が暴力やパワハラ指導において大好きだった体操なのに指導をしてもらえないので辞めざるを得なかったり、殴られるのが怖くて来ることが出来なくなったりしていました。

 私個人としてもそのような指導者を雇って指導をさせた会社の責任者としてこの事実を真摯に受け止め、被害を受けた選手に対する償いとして一生懸けて二度とそのようなことが起こらない世界を作らなくてはいけないし、そのような使命が私にはあると思いました。

 その気持ちは『勝利至上主義』の蔓延る世界が未だに存在し、変わらないことに対する「公の怒り」として私自身が本気で改革するという覚悟を決め、ここまでの経験をパワーに変えて実行していくことが人が喜ぶことに繋がると考えるよう気持ちを完全に切り替えました。

 怒りを私憤と公憤で分ければ、私憤を消し公憤を持ち続けることで改革が進むことができるということを学びました。
 このような過去の苦い経験が私の価値観の中に眠っていた信念を呼び起こし、そしてこの気持ちの切り替えの瞬間こそが「スポーツ指導の世界でのスポーツマンシップ普及」に自分を突き動かすきっかけになったと思います。

 変わらない「勝利至上主義」が指導現場に多く蔓延り続けることで起こるさまざまな弊害として、自分自身で考えたり、行動することが出来ない大人を今後増やすことに繋がっていきます。

 また、今後勝利至上主義、悪しき教育の弊害により近い将来社会で活躍出来る子を減らし、国として競争力も低下させるようなことに繋がり、さらにどんどん日本が魅力のない国になっていってしまう危機感があります。

 誹謗中傷や人を傷つけるような行為がスポーツマンシップが普及し、さらに浸透していくことで減ってくるのではないかと思っています。
 
 スポーツマンシップの普及こそが子供達の将来を確実に良いものにし、日本の将来も明るくしていくことに繋がっていき、それが浸透すれば勝利至上主義は無くなっていくと確信しております。

 このような想いで今スポーツマンシップ普及に取り組んでおり、目標としては10年間で60万人以上の指導に携わる方から理解・賛同を得て、日本のスポーツ指導環境を変えることが私の大きなミッションです。

 この本が一人で多くのスポーツの指導に携わる方々にスポーツの意義やスポーツマンシップの理解や必要性に対して、スポーツ指導の枠に留まらず、子供達の未来を明るくするための道筋を考える一冊となって頂けたら幸いです。

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