著者:Sゲームブッカー (著, イラスト)
ページ数:686
¥450 → ¥0
567パラグラフゲームブック、鉛筆画の挿絵8点。紙と筆記用具、選択によってはサイコロ1個必要です。
2010年7月に小説投稿サイトで初期版を公開。好評を得まして、大幅に加筆修正した唯一の長編になります。主人公はとある理由で体外離脱(幽体離脱)して、奇妙な異世界の町を探索します。能力値やサイコロ戦闘などはなく、フラグチェックとマッピングをしながらプレイ。クリア後の達成感はかなりあり、真の結末に辿り着くには試行錯誤が必要になるでしょう。コンセプトは、プレイするたびに新しい発見がある、多彩なフラグの使い方、最も感動するゲームブック、体外離脱シミュレーター。
プロローグ
未希を誰よりも愛していた。初めての彼女だった。雪の降る道で、足をくじいてうずくまっていたところを真っ先に駆け寄り、「大丈夫?」と声をかけたのがきっかけだ。初々しいセーラー服姿に長い黒髪、大きくて潤んだ瞳に胸がときめいた。それは去年の12月20日の、忘れられない出来事だった。
俺たちは5日後のクリスマスの日に付き合い始めた。それから1年が経とうとしており、記念日には2人でどこか旅行にでも行こうと話していた。
未希と出会ってちょうど1年、記念日まであと5日という12月20日の朝、未希は登校中に突然飛び出してきた乗用車にはねられてしまう。
すぐに近くの病院へ運ばれたと未希のお母さんから涙声で電話があり、無我夢中で病室に駆けつけたとき、未希は顔に白布をかけられて、ベッドに横たわっていた。信じられないという気持ちで歩み寄り、両膝をつくとそっと白布をめくった。その手は、絶望で震えていたのを覚えている。
未希の色白で愛らしい顔には傷ひとつなく、それがせめてもの救いだった……。
ひとまずアパートに戻っても何もする気になれず、未希からの誕生日プレゼントの手編みのセーターを抱き締めて、部屋の片隅に座り込んでずっと泣いていた。
泣き腫らした顔を上げ、壁の柱時計を見る。夜の7時が少し過ぎている。10時間も泣いていたのか。
さすがに泣き疲れて、気晴らしにテレビをつける。体外離脱の特集番組をやっている。意識が肉体を離れて空を飛べたり、遠く離れた土地を訪れることもできるという体外離脱に興味を持ち、本などを読んで何度か試したりしていたが、一度も成功したことはなかった。体外離脱をした経験のある若い女性が、その後の世界で亡くなった祖母が目の前に現れ、話をしたと真剣な表情で語る。その瞬間、俺は画面に釘付けになる。
これだ!
番組内で簡単な離脱法が紹介される。これならいけるかもしれないと思えた。未希は今、どんな気持ちでいるのか知りたい。どうしても再び会って話がしたかった。
さっそく着ていた服を脱ぎ、パジャマに着替える。
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