著者:山本周五郎
ページ数:313

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 本書は「山本周五郎 全集未収録作品集2 愛情小説集」を電子ブック化したものである。初版発行は昭和47年9月1日、発行所は実業之日本社、カバーは電子ブック用に新しく制作した。
 士道小説集の内容紹介でも書いたことだが、本書の各篇が、新潮社版、講談社版の『山本周五郎小説全集』からオミットされているのは、決して作品の不出来によるものではなくて、全集刊行時に、これらの作品を集めることができなかったためである。もともと作者自身、作品の切抜きや、単行本を手元に保存しない建前であったし、戦前の大衆娯楽雑誌までを完備する図書館等も少なく、ほとんど散逸の状態にあったのである。

 表題は主として人間同士の愛情を主題とした作品群から成立っているところから、『山本周五郎愛情小説集」と名付けた。発表年月は、『春いくたび」の昭和十五年四月から、軽妙な掌篇である『渡の求婚』の昭和三十一年一月にわたっており、全十篇のうちの七篇は、昭和二十三年以降、すなわち、作者自身が新しい脱皮をこころみたと自認する戦後作品で占められている。
 収録した作品は『春いくたび』、『夫婦の朝』、『宗近新八郎』、『蘭』、『山茶花帖』、『おれの女房』、『おばな沢』、『いしが奢る』、『夜の蝶』、『渡の求婚』の十編である。

 昭和二十九年から三十三年にかけて、山本周五郎は畢生の代表作とされる『樅ノ木は残った』に精力的に取組むが、本書の「夜の蝶」は、その意欲的な期間に描かれた作品で、とくに見事な出来栄えを示している。内容の重量感において、この作者の全作物のなかでも第一級に格付けられる創作と評して過言ではありますまい、と解説で木村久邇典は太鼓判を捺している。
 「山本さん名付くるところの「一場面もの」のひとつで、『深川安楽亭』「ちゃん』『嘘アつかねえ』『並木河岸』「凍てのあと』『さぶ』などに描かれたおなじみの下町の居酒屋を背景に、鋭く切りとった人生の一断面が展開されます。まさに作者の独擅場というべきでありましょう。」

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