【無料で読める】グヌンアグン (arakahi books)

●インドネシアのジャワの伝説では、ジョクジャカルタのスルタンと、南方の海からやって来た女王とが海岸で出会い、ジャワの国を栄えさせたという。そのスルタンの系譜は今に続き、インドネシアが共和国となった現在でも特別州の知事としてその地を治めている。スルタンが民を思い、民がスルタンを慕うとの関係は大昔からのことだった。今もスルタンは王なのである。
その南の海を石油開発鉱区として石油企業に開放しようとするミガスの目論見はジャワのスルタンと民にとって聖地を破壊するものとしか思えなかった。しかし知事は沿岸部より沖合に関しては発言権を持たなかった。そこでスルタンは親戚の者のつてを利用して伊達清に連絡し、ミガスの計画の阻止を依頼する。その時つけられた条件はあくまでも平和的手段で、というものだった。
スルタンと伊達はジャワの代々のスルタンの霊廟のあるイモギリに登り、言葉を交わす。その時の合言葉がジャワの民なら知らぬものがないという、言わばジャワのいろは歌のようなものだった。ホノチョロコ　ドトソヲロ…というものだ、英字表記すれば、
ha na cha ra ka, da ta sa wa la, pa dha ja ya nya, ma ga ba tha nga
スルタンの親戚の方が教えてくれた意味は、
第一節：There was a messager
第二節：They are two worriors
第三節：Both of them are very brave
第四節：At the end both of them died
である。
また、ジャワの歴史は矢張り南の海からやって来た「アジサカ」に始まるという。すなわち南の海は二重の意味で重要な、ジャワの民の古い古い故郷に関係するものだったのである。
南の海に、遺物を静め、津波という神の警告を演出し、はてはメラピ山を噴火させ、そして鎮めるという自然現象を人工的に造る。今までの活躍とは異なり自然現象を科学力を駆使して創り出しての戦いは、暗殺ものとは別の意味での興奮を与える。
ちりばめられたジャワ語がインドネシアを知る人にも新鮮な響きなのではないかと思われる。本書を読んだ後にジョクジャカルタ周辺を歩けば旅の楽しみもいや増すに違いない。

●著者について

園田 豪（そのだ ごう）
1948年（昭和23年）4月21日生まれ
日本の作家、歴史研究家
株式会社 麁鹿火 代表取締役

石油資源開発株式会社に入社。サハリンの油ガス田や中東の油ガス田の探鉱・発見などの後、55歳で同社を早期退職し、在職時代から始めていた執筆活動を本格化しました。
最初はオーストラリア関係のエッセイを書いていましたが、長年研究していた日本の古代史に関する成果を小説型に纏めた「太安万呂の暗号シリーズ」8作に重点的に取り組みました。
その科学的バックグラウンドとなる論考を更に「人麻呂の暗号と偽史「日本書紀」～萬葉集といろは歌に込められた呪いの言葉」として纏めました。中世に関しては、「かくて本能寺の変は起これり」「真田幸村見参!」を上梓しています。また、アクションシリーズも手掛けていて、この作品もその一つになっています。
ハードボイルドな世界観が好きな人にはおすすめです！