著者:土居洋三
ページ数:75

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 ミケランジェロは一四七五年にフィレンツェ共和国の片田舎カプレーゼに生まれ、一五六四年、ローマで八十八歳の生涯を閉じた。
 存命中からその彫刻作品は高い人気を博し、貴族たちから絶え間ない制作注文が来たから、時として注文に応じ切ることができなかった。したがって、どうしてもイタリア国内の依頼主を優先して制作を果たしたから、その作品群はほとんどがイタリア国内に残った。いまでこそ彼の彫刻は、ルーブル美術館に二点、エルミタージュ美術館に一点、ロンドン・ロイヤル・アカデミー美術館に一点の合計四点がイタリア国外に出ているが、彼が活躍していた時代に限っていえば、たった一点を除いて、全作品がイタリアに存在していた。
 その「たった一点」とは何か。
 それが本書のテーマ、『聖母子像』である。
 ベルギーの古都ブルージュの聖母教会に安置されている。
 では、なぜその一点だけが、イタリアから千キロ北方に位置するブルージュにあるのか。当時のイタリア貴族は、自分たちの注文に応じ切れないミケランジェロの作品を、断じて国外に出さなかったはずだ。外国人の手に渡すぐらいなら、なんとしても「自国の客」としての優先権を主張して、強引に手に入れたはずだ。にもかかわらず、なぜ『聖母子像』だけがイタリア国外に出たのか。この事実は、ほとんど奇跡といっていい。
■目次 1.聖母子像 2.若き天才ミケランジェロ 3.秘匿(ひとく)制作 4.秘匿輸送 5.ミケランジェロとダ・ヴィンチ 6.後世への影響 7.ブルージュのこと(付記)

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