著者:原 均
ページ数:237
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鳥は空を飛びます。しかしなぜ飛べるのかを知りません。ましてや説明なんてできるわけがありません。同様にわたしたちは歩くことができます。しかしどうやって自分が歩いているのかを知りません。ましてやそれを説明することなんてさらさらできないのです。多くの関節とそれを動かす筋肉と、体中に配置されたセンサーが、どのように連携しながら身体を動かしているのか、わたしたちは知りません。ましてや説明なんてできるわけがないのです。ロボットの無様な動きがそれを証明しています。
そのように、わたしたちはゴルフを知りません。
わたしは長年半導体の開発に携わってきました。数億、数十億個のトランジスタを組み合わせて、複雑極まる機能を発揮させます。あまりにも複雑すぎて人間の頭では正確にその動きを追うことができません。ところが、論理記述によって回路が合成され、回路シミュレーションによって性能が調べられ、所望の機能を果たす集積回路が設計されます。
月にロケットを飛ばす前には、必ず精密にロケットの飛行をシミュレーションします。エンジンの推進力が機体を加速する様子を調べ、飛行中の空気抵抗を調べ、空気摩擦によって加熱される様子を調べ、ロケットに加わる圧力を調べます。ロケットの飛翔軌跡を描き、地球と月の重力の中で、月への軌道に乗せます。あらゆることがシミュレーションで調査されます。そして実際に打ちあげると、ロケットは寸分の狂いもなくシミュレーションの結果をなぞって月に到着します。コンピュータの発達のおかげで、現実とはシミュレーション結果をなぞることではないかとすら、わたしには思われます。
わたしはゴルフを詳しく知るために、シミュレーションできる環境を作りました。そして複雑怪奇なゴルフを説明可能なものにし、勢い余って自分のスコアの改善に寄与させたいと企みました。
この本は、ゴルフのスキルを教えるためにかかれたものではありません。ゴルフを、物理学を使って研究した結果をまとめたものです。ただし、スコアを改善するという目的を持っています。それゆえ、応用物理学と呼んでいます。
シミュレーションが教えてくれた方法を使ってスコアを改善して、鼻高々に自慢したい気持ちがあります。
しかし、気が付いてみると、70歳にもなってしまっています。体力も、知力も、坂道を転げ落ちるように衰退しています。老眼がひどくなって本も読めなくなってきました。もうすぐグリーンの傾斜が見えなくなってしまうでしょう。だからスコアの改善記録まで含めた本にするのはあきらめました。
提案しているアイデアは実際に自分で実行してみて有効であることを検証しています。ただし、完全に身につけて無意識に実行できるまでにはなじんではいません。おそらく1年か2年の間意識して実践しているうちに身につくのではないかと考えています。スコアの改善が先か、老いぼれるのが先か、競争を楽しみます。
おそらくこの本は物理学を使って、スコアを改善するために、深く広く研究した稀有な書物の一つだと自負しています。この本に触発されて、ゴルフの応用物理学を研究し始める人や、アイデアのいくつかを実践してスコアの改善につなげる方が出現してくれたら、わたしにとって望外の喜びです。
具体的な内容に関しては、下記の目次を参考にしてください。
序
一章 スイング研究
1.シュミレーション・モデル
2. スイング・モデル
3.ジャスト・ミートを阻む諸問題
3.-1 力の強さの変化
3.-2 グリップ旋回面の傾きの変化
3.-3 トップでのシャフトの傾きの変化
3.-4 トップの深さの変化
3.-5 フェイスの向き
4 考察とまとめ
2章 クラブとスイングに関する研究
1.クラブ・セット
2.番手ごとのスイング
2.-1 同じスイングでクラブを振ると
2.-2 偉大なゴルファーのスタンス
2.-3 一つのスイングですべてのクラブを
3. 考察とまとめ
3章 インパクトとボール飛翔に関する研究
1.インパクト
2.ボールの飛翔
3.ヘッド・スピード
4.傾斜の影響
4.-1打ち上げ、打ち下ろし
4.-2前上がり、前下がり
4.-3 左足上がり、右足あがり
5.最大飛距離
6.ヘッド形状
7.考察とまとめ
4章 パットとグリーンに関する研究
0.緒言
1.スティンプ値とボールの転がり
2.成否を決めるもの
3.パットのラインを読む
4.ハッピー・トライアングル
5.ロング・パット
6.具体的手順
7.目標の狙い方と道具
5章 ゴルフをデザインする
1.最適なスイングとは
2.水切りスイングのシミュレーション
3.スイングの練習
4.コースで遭遇する課題
5.水切りスイングの特徴
6.ダフリを防止
7.距離を落とすスイング
8.20ヤード以下のチップ・ショットのスイング
9.仮想ターゲット
10.目指すべきゴルフの姿
11.持ち球について
12.スイングにおける定規の役割
13.ベン・ホーガンのスイング
14.気持ちで変わる傾斜の不確実性
15.極端にフェイスを開くショット
16.手も足も出ない課題
補足
1.スイング・シュミレーション
2. パッティング・シミュレーション
3.耳と耳の間の仕事
あとがき
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