著者:酒本幸祐
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酒本幸祐さんの巡拝記──刊行にあたって 地人館代表 大角 修

 酒本幸祐さんは六月書房という出版社の社長をしながら、故郷の四国八十八所をはじめ、あちこちの寺社詣でを欠かさない。2004年4月には、西国・坂東・秩父に加えて鎌倉三十三観音巡拝の記録『菩薩の風景 日本百観音霊場巡拝記』 を上梓された。本書はそのなかの西国巡礼の部分を再編集したものである。
 ところで近年、霊感スポット、スピリチュアル、御朱印集めといった言葉とともに、寺社参りの人気が高まっているという。観音札所についても、各地の霊場会のサイトをはじめ、各種の旅行ガイドブックなどで盛んに紹介されている。にもかかわらず、もう20年も前に刊行された観音霊場巡拝記を再刊したのは、昔から庶民の楽しみだった「信心の旅」の感覚がよみがえるように思われたからである。
 酒本さんは古い友人であるが、とりわけ信心深いようでもなく、何か特定の信仰をされているわけでもない。そんな強い信仰ではなく、素朴に神仏に礼拝するところに味わいがある。
 たとえば、結願の「第三十三番 谷汲山華厳寺」の項に次のようにいう。
「本堂内に入って、前立ちの十一面観音像に向って、結願のお礼、心願成就、そしてこれまで廻った寺々を思い出しながら、般若心経をゆっくり七巻唱えた。無事ここに立てたことが、しみじみありがたかった」
 この「しみじみありがたかった」という感覚を近年流行の寺社参りの人はもつことができるだろうか。観音堂の前で撮ったVサインの写真をメールで送ったりする世代には、もしかしたら、消えてしまった感覚かも知れない。といって、霊的なものへの関心は消えない。昔は庶民の健全な娯楽だった寺社参りから「もったいない」「ありがたい」という素朴な感覚が失われたとき、その心の空白に霊感とか怨霊とか、カルトの恐怖がしのびよってきても不思議ではない。
 この不安の時代に酒本幸祐さんの巡礼記は、ほどよく信心深くて貴重なものである。

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