続続続・高尾山妖怪登山道: あたしに惚れちゃいけないよ・・・って編

　戦闘機ユーチューバー・エアーの三郎が気になるニホンリスのメス妖怪クルミと一郎を見ている毒蛇ヤマカガシのメス妖怪ヒメは茨城の航空ショーに電車で向かっている。妖怪であることを隠すため人間とまったく同じ行動を取っている。ただしファッションは森林作業員とロリータである。目立つ。
「クルミ、三郎くんがコクハクしてきたらどうする。知ってる？　人間のコ、ク、ハ、ク」
「知ってる。コクハクされたらねぇ、言ってやるの」
「なんて？」
「あたしに惚れちゃいけないよ・・・って」
「ぷははははは」
「ははははは」
　二人は吹き出しながら笑った。
「ははは、でもさ、三郎くん、泣いちゃったらどうする？　あの子、泣くよ」
「そしたら、かわいそうだから、私も三郎くん、好きよって言ってあげるの」
「えー、どうするの？　相手は人間だよ」
「どうなるか分かんないけど、そう言うの」
　そう言って二人は顔を見合わせて、楽しくて笑いが止まらない。あっという間に時間は過ぎ、目的の駅に着いた。

　高尾山は生物界と妖怪界が共存できる数少ない山である。生物界ではオス、メスがともに存在して繁栄してきたが、妖怪界は暴虐の限りを尽くすオス妖怪に対してメス妖怪たちは立ち上がり、すべてのオス妖怪を消してしまったのだ。その後長い平和の時を享受してきたが、ここに来てメス妖怪の一部にオス妖怪を生み出す裏切り者が現れた。生み出されたオス妖怪は人間を戦士にして戦いを挑んできた。そこに高尾山の登山者たちが否応なしに巻き込まれて行く。

　高尾山を中心とする登山者たちは人間の姿に変身したメス妖怪と出会い、その手助けをすることになるのだが、メス妖怪界の中にも疑心暗鬼が生まれ、対立が始まる。一方、人間界は正義と正義がぶつかり合って放火殺人事件まで発展する。

　妖怪の優れた能力の一つに擬態がある。人間に変身すると妖怪同士ですら正体を見破ることができない。このためユーチューバーとして出会ったオス妖怪とメス妖怪が惹かれあっていくが、楽しい時間は限られていた。人間も妖怪の争いに巻き込まれながらも男女の心は錯綜していくのである。