著者:中山 元
ページ数:210

¥800¥0

本書では古代のギリシアから現代にいたるまで、労働と仕事についての考え方の歴史がひもとかれている。とりわけ近代以降の西洋における有名な労働論をどれもこの一冊でたどることができる。アダム・スミス、ホッブズ、ロック、ヒューム、カント、ヘーゲル、マルクス/エンゲルス、シエイス、オーウェン、サン・シモン、フーリエ、ゴータ綱領、シェーラー、シモーヌ・ヴェーユ、テーラー・システム、フォード主義、イリイチのシャドウワーク論など、すべて簡潔で明晰に解説されている。

現代では労働は、人間の行為の一つの側面であることを越え、人間のほとんどすべての活動のうちにみいだされる営みとなっている。それとともに労働の価値と反価値とが、誰の目にもあらわに示されるようになっている。しかし歴史的には、労働という概念には否定性と肯定性が表裏をなしてまつわってきた。今日、働くことは、社会的な承認を獲得するために重要な方法であるが、そのために働くことだけが生き方ではない。また金銭的な報酬を代価とする仕事だけが仕事ではない。労働の意味が大きく変動する中で、労働の思想についての揺るぎない知識とともに、働く意味を考えるために必須の一冊。

目次

序 労働と仕事
  働くということ
  労働と仕事
第一章 古代の労働観
  労働の肯定性と否定性
  仕事の否定性
  三種類の行為
  人間の行為の階層構造
  聖書と労働
第二章 中世の労働観
 第一節 修道院と労働
  奇妙な混淆
  労働の価値の向上
 第二節 新たな展開
  一二世紀頃の中世社会の発展
  修道院の富の蓄積
第三章 宗教改革と労働――近代の労働観の変革(一)
 第一節 宗教改革と労働
  宗教改革の意味
  労働の役割
  近代の労働の逆説
 第二節 労働の聖化
  世俗での労働の聖化
  プロテスタントにおける労働の合理化
  ヨーロッパにおける労働の倫理化
 第三節 労働する主体の構築
  資本主義の労働にふさわしい労働者の構築
  従順な身体
  閉鎖空間・時間
  配置と監視
  時間的な配置
  精神の訓練
  階層秩序的な監視
  規格化を行う制裁
  試験
第四章 経済学の誕生――近代の労働観の変革(二)
 第一節 重商主義と重農主義の労働論
  重商主義と重農主義
 第二節 アダム・スミスの登場
  スミスのエゴイズムの理論
  スミスの労働価値
  スミスの生産的な労働と非生産的な労働の区別
  スミスの労働価値説の問題点
第五章 近代哲学における労働
 第一節 ホッブズの第一歩
  ホッブズの労働論
  社会における労働の意味
 第二節 ロックの貢献
 第三節 ヒュームによる変容
 第四節 カントの労働と遊戯
  教育の意味
  労働と品位
  労働と道徳
 第五節 ヘーゲルの労働論
  主奴論
  自己意識の弁証法
  承認を求める闘争
  奴の労働
  労働と道具と自然
第六章 マルクス主義の労働論
 第一節 人間の本質としての労働
  エンゲルスの労働論
  マルクスの労働論
 第二節 マルクスの労働価値説
  労働過程論
  労働価値説
  剰余価値
 第三節 労働による疎外
  搾取
  四重の疎外
  労働の廃棄
第七章 労働の喜びと悲惨
 第一節 フランス革命と産業者階級の理論
  シエイスの第三身分の理論
  サン・シモンの産業者の理論
 第二節 オーウェンのユートピア
  オーウェンの共同体
  共同社会プロジェクト
  労働の観点から
  オーウェンのユートピア
  オーウェンの宗教と結婚制度の批判
 第三節 シャルル・フーリエの労働の喜び
  産業主義批判
  産業界の転倒
  フーリエの改革案
  フーリエの情念の理論
 第四節 新しい宗教
  ゴータ綱領
 第五節 シェーラーの労働論
  労働の喜び
 第六節 シモーヌ・ヴェーユの労働論
  工場労働の体験
  工場労働の弊害
  ヴェーユの試み
  ヴェーユの神秘主義
 第七節 現代の労働システムとその変遷
  テーラー・システム
  ヴェーユによるテーラー主義の分析
  フォーディズム
  フォーディズムの蹉跌
  新たなモデル
第八章 労働論の功罪
 第一節 生産至上主義の限界
  マルクスにおける労働と生産の意味
  マルクスの生産至上主義
  革命の目的
  生産の鏡
 第二節 ルソーの「自然状態」と「文明の堕落」
 第三節 ニーチェによる労働批判
  ニーチェの主奴論――奴隷のルサンチマン
  司牧者の役割
  自然の侵害と人間の幸福
 第四節 ハイデガーの技術論
  表象の学
 第五節 啓蒙の弁証法
第九章 グローバリゼーションの時代の労働
 第一節 シャドウワーク
  シャドウワーク批判
 第二節 感情労働
  感情労働とは
  感情労働の要求するもの
  表層演技と深層演技
  感情の働き
 第三節 新たな市場の創設
  介護サービス
  監獄における民営化
  軍の民営化
  警察の民営化
  働くことの意味
最後に

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