著者:寺島 英弥
ページ数:316

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[商品について]
―古里とは何か、復興とは何か―
東京電力福島第1原発事故による高い放射線量を理由に、飯舘村、浪江町、川俣町山木屋、富岡町の4市町村に出されていた全住民の避難指示が解除され、帰還困難区域を除く地域から避難していた計3万2000人の住民は、除染作業が終わった古里に帰還できるようになった。しかし、長い歴史を分かち合い助け合ってきた隣人も共同体を培ってきた人のつながりも建物と共に解体され、6年もの避難生活で被災者が待ち続けた古里はかつてのふるさとではなくなっていた。避難指示解除から1年がたっても、実際に帰還している住民は多くの自治体でもおよそ1割前後という厳しい現実。そこには、生き直しの決断を迫られ葛藤に苦しみ、あるいは隣人なきムラの孤独な開拓者に戻る覚悟を迫られ、苦悩とともに「古里」と向き合う人々の姿がある。本書は、自らも福島線を古里に持つ著者が、避難指示解除後に被災地で起きている現実と、終わりのない苦難を背負いながら生きる同胞のありのままの言葉と思い、魂と呼ぶべきものを、取材の縁を重ねる人々の歩みを通して描いた渾身のルポルタージュである。

[目次]
まえがき
2016年10月 飯館村 バリケードの向こうに取り残される 帰還困難区域「長泥地区」
バリケードの中の古里
原発事故で高線量地域に
帰還困難区域の風景
「復興拠点」の対象外に
住民を突き放した国
行き違いで消えた可能性
終わらぬ苦悩と希望の模索
2017年2月 飯館村 居久根は証言する 除染はいまだ終わっていない
跳ね上がる線量計の値
行政区長として奔走
住民自ら除染を検証
「はぎ取り」の正しさ証明
政府目標は「年間1ミリ」
残された8万ベクレルの土
2017年3月31日 飯館村 「おかえりなさい」 飯館村の避難指示解除の朝
祭りのような「おかえりなさい式典」
菅野村長が語る「村のこれから」
2017年3月 飯館村 望郷と闘病、帰還 そして逝った女性の6年半
心に決めていた帰還
再び集う隣人たち
仮設住宅で奮闘の日々
がんと闘いながら
帰還後をどう生きる?
2人で生きてゆく決意
「末期」と向き合う日々
心を癒やす古里
最後の見舞い、そして
悔いなく生きられた
「思いを受け継いで」
2017年4月 飯館村 あのムラと仲間はどこに 帰還農家が背負う開拓者の苦闘
戻ってこない農地
地力回復工事の実態
学生たちに語る苦闘
飢饉を生き抜いた家
農地返還の遅れと不信
無数の大石との格闘
冬の除雪も自力覚悟
予期せぬ妻の発病
ヘルパー確保も難しく
「日常」あまりに遠く
夫婦で夢見る未来
2017年4月 相馬市 被災地の心のケアの現場で聞いた 「東北で良かった」発言
「東北は熊襲」以来の差別発言
フラッシュバック
沖縄戦でも起きた「遅発性PTSD」
存在を「全否定」した暴言
繰り返された暴言
「復興」「寄り添う」「がんばろう」
2017年5月 相馬市 風評に抗い「汚染水」と闘って逝った 漁協組合長が残した宿題
「非常時」終わらせる
実力トップの漁師
津波で妻を失っても
「信頼関係はまた崩れた」
「俺は死んでもやり通す」
市場再建祝う6年ぶりの祭り
「放出やむなし」の世論づくり
ソウルではPR行事中止
協力してきたのに……
「五輪前の処理」が本音?
2017年6月 飯館村 作り手なき水田を北海道並みの放牧地に 和牛復活に懸ける農家の妙案
6年ぶりに放された牛
畜産への愛着を捨てず
「コメは風評で売れない」
農地を荒廃させず活用
障壁の「あぜ」撤去を敢行
「和牛の村」復活を願い
2017年6月 いわき市~楢葉町~富岡町 被災地へ3500人をガイド 湯本温泉ホテル主人が伝え続ける原発事故
原発事故をきっかけに始めた活動
「3・11」後の苦難を語る
人の姿がない被災地
住民に刻まれた洗脳の傷
分断された桜の町
見せかけの「復興」
増えるツアー参加者
「経営者」から生まれ変わって
2017年7月 南相馬市小高区 7年目の再出発でも晴れない 精神科病院長の苦悩と怒り
東日本大震災の名を改めよ
幅広い健康影響調査を
「帰還促進」政策への疑問
根拠なき基準が独り歩き
新天地での再開、戻れぬ小高
帰還者はどこに
2017年8月 浪江町 「3月11日」から6年半の荒廃 遠ざかる古里を見つめて
無残に荒らされた家々
あらゆる動物が侵入
2000軒の家屋を調査
500枚の年賀状が100枚に
「何でもやるしかない」
「浪江焼麺太国」の太王
「涙がこぼれた」
再びまとまれる場所
2017年9~10月 飯館村~南相馬市 被災地に実りを再び 食用米復活を模索する篤農家たち
長雨と低温の夏
コメを作れると確信
孤独と困難を背負い
風評との厳しい闘い
青米の混じる収穫
牛、豚の飼料米に
苦境に耐えた日々
浜通りのコメ復活を
2017年11月 新地町 映画『新地町の漁師たち』が描く 知られざる浜の闘い
映画監督と漁師の出会い
生の言葉が紡ぐ現実
「拍子抜け」に触発
イメージの変化
風評に脅かされる未来
「ただ『福島』というだけで」
「安波祭」に見た希望
「震災ものを観る人はいない」
「人影」の意味
2017年12月 京都市~南相馬市~郡山市 福島と京都の間で 「希望」を探し求める自主避難者の旅
伏見の「みんなのカフェ」
福島から京都へ自主避難
福島県が支援打ち切り
とどまるか、帰還か
駆け抜けてきた4年
南相馬に仲間を訪ね
人が戻らぬ小高の街
異郷で確かめた絆
福島のいまを知るツアー
風評に抗う「自然酒」造り
古里とつながる思い
人生の選択は2年後に
対談「取材7年 福島の被災地から聞こえる声」
津田喜章(NHK仙台放送局「被災地からの声」キャスター)×寺島英弥
あとがき
著者紹介

[出版社からのコメント]
東日本大震災から時が経ちその記憶が少しずつ薄れていく中で、私たちは今も終わりのない現実と向き合い苦しんでいる多くの方がいるということに、今いちど目を向ける必要があると思います。原発再稼働の議論もされる今、私たちが何をすべきなのか、ぜひ本書をひもときながら考える機会を持っていただければ嬉しく思います。

[著者紹介]
寺島英弥(てらしま・ひでや)

ジャーナリスト、河北新報社論説委員
1957年、福島県相馬市生まれ。早稲田大学法学部卒。編集局次長兼生活文化部長、編集委員を経て2017年から現職。02~03年にフルブライト留学で渡米。東北の暮らし、農漁業、歴史などの連載企画を長く担当し、連載「こころの伏流水 北の祈り」で1993年度新聞協会賞。11年3月から震災取材に携わる。ブログ「余震の中で新聞を作る」。新潮社「Foresight」に福島の被災地ルポを執筆中。
著書に『シビック・ジャーナリズムの挑戦――コミュニティとつながる米国の地方紙』(日本評論社)、『東日本大震災 希望の種をまく人びと』『海よ里よ、いつの日に還る――東日本大震災3年目の記録』『東日本大震災4年目の記録 風評の厚き壁を前に――降り積もる難題と被災地の知られざる苦闘』『東日本大震災 何も終わらない福島の5年 飯舘・南相馬から』(以上、明石書店)、『悲から生をつむぐ――「河北新報」編集委員の震災記録300日』(講談社)などがある。

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