著者:山崎雅弘
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第二次世界大戦の終結後、東南アジアの諸地域では民族主義の炎が燃えさかり、欧米の植民地支配からの脱却と独立を実現するための政治闘争が活発に繰り広げられていた。

これらの東南アジア諸国の独立運動は、戦時中における日本軍の軍事侵攻および軍政統治から様々な形での影響を受けていたが、その影響の内容には地域や民族によって大きな開きがあり、日本軍の統治からほとんど肯定的な影響を受けなかった国もあれば、日本軍の軍人が戦中・戦後を通じて積極的に独立の後押しを行った国も存在した。旧米領のフィリピンや旧英領マレーなどは前者の例であり、本稿でとりあげるインドネシアは後者に属するが、日本軍が戦中に築いた現地人の行政機構をいったん白紙に戻すことなく、その延長として戦後に独立(現地語でムルデカ)を実現したのは、事実上インドネシアただ一国だった。

戦前から戦後に至る時期の日本とインドネシアの関係は、政府レベルでの政治的判断から陸海軍の軍事的事情、そして現地の日本軍将校や下士官が行ったインドネシア人若者の心身両面での鍛錬に至るまで、様々な思惑と理想が幾層にもわたって複雑に絡み合い、一元的な「侵略」や「解放」という善悪の概念だけで全てを説明することはできない。

例えば、日本政府は、1943年5月31日の御前会議で承認された「大東亜政略指導大綱」の中で、最重要の戦略物資である石油をはじめボーキサイトや錫、ゴムなどを豊富に産出するインドネシアについて「永久に帝国の領土とする」と規定していた。言い換えれば、日本はこの御前会議の時点では、インドネシアの独立を認めず、逆に日本の領土へと「恒久的に併合する」方針を、戦争指導の大綱に明記していた。

その一方で、東條首相が声高に叫ぶ「大東亜の共栄」という表面的な美辞麗句と、大本営および陸海軍の高官に共通する現地事情への無理解という、厳しい現実の間に存在する不条理を目の当たりにしたインドネシア駐留の日本軍将校や兵士の一部は、純粋な義侠心から「大義」に殉じる覚悟を固め、日本政府が戦時中に公言した「約束」を自分たちの手で果たすべく、日本が敗北した後もインドネシアの独立勢力に加担し続けた。そして、彼らの中にはオランダとの独立戦争で戦死し、還らぬ人となった者もいたのである。

それでは、インドネシアのオランダ統治下からの独立は、いかなる経緯を経て達成されたのか。

本書は、かつてオランダの植民地であった東南アジアのインドネシアが、太平洋戦争を経て戦後に独立を獲得するまでの歩みを、コンパクトにまとめた記事です。2007年9月、学研パブリッシングの雑誌『歴史群像』第85号(2007年10月号)の記事として、B5判12ページで発表されました。東條英機を首班とする当時の日本政府と現地駐留の日本軍人たちは、インドネシア独立という出来事にどのような形で関わったのか、その理解を深める一助となれば幸いです。

《目次(見出しリスト)》

アジア諸国のムルデカ(独立)

《戦前のインドネシアと日本》
列強に翻弄されたインドネシア
日本の開戦決意と蘭印侵攻計画

《歓迎と失望・日本軍政統治の前半期》
民族意識を尊重した今村軍政
スカルノとハッタの対日協力
郷土防衛義勇軍(ペタ)の創設

《黄昏と希望・日本軍政統治の後半期》
小磯内閣の独立容認声明
石油に対する関心の消滅
独立準備調査会と独立準備委員会の創設

《日本の敗北と悲願の独立宣言》
スカルノとハッタの独立宣言
日本軍将兵の葛藤
オランダとの独立戦争

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