著者:まいるす・ゑびす
ページ数:193

¥620¥0

 正直、全然期待してなかったんですよね。オーストラリアって英語圏だし、先進国だし、普通に西洋文化で、アメリカとかとそんなに大差ないんじゃないかと。しかも、日本からさほど遠くもないし、時差もほとんどないので気楽に行けるし、ワーホリで行けるから日本人もかなり多いみたいだし、まあちょっと行って帰って来るにはいいんじゃないかと、そのくらいの気持ちだったんです。最初は。きっと一ヶ月くらいしたら気持ちもリフレッシュされて、東京に戻りたくなるだろう、と。

 ところが、ですよ。辿り着いてみると、いきなりその理不尽な物価の高さに驚かされます。ミネラルウォーター一本250円。そして家賃の支払いが週単位だということに驚かされます。オーストラリア人に理由を聞くと、「そりゃあだって、二月は日数が少ないのに、他の月と同じ金額なんて理に適ってないじゃないか。」と当たり前すぎることを仕方なく説明するかのようにサラリと言ってのけるのです。コーヒーショプへ行けば、パンにバターを塗っただけのトーストが500円以上するんです。日本なら牛丼にみそ汁と漬け物が付けられる値段で買えるのはバターを塗っただけのパンたった一枚なんです。

 けれども全ての事柄には裏と表があるんです。物価の高さ、というのは裏を返せばそれだけちゃんと例えばカフェでパンにバターを塗る担当の店員がそれなりのお金をもらえる、ということなのです。カフェで働いている店員が時給にして二〇〇〇円くらいもらっていたりするのです。オーストラリア人を捕まえて問いつめてみると、「そりゃあだってせっかく働いてくれている人を安くコキ使うなんてかわいそうじゃないか。ファーストフードの店員を粗末に扱うようになってしまったらアメリカと一緒じゃないか。そんなことをしたら国がダメになる。」と当たり前すぎることを仕方なく説明するかのようにサラリと言ってのけるのです。

 これは僕にとってカルチャーショックでした。サービスを受けることばかりについつい目を向けてしまいがちですが、オーストラリアでは、サービスを提供する側の人たちのこともちゃんと考慮に入れた上で社会の構築がされているのです。つまり、吉野家の店員が全員時給二〇〇〇円もらってしまったら牛丼は恐らく一杯千円くらいにはなってしまうでしょう。それでもオーストラリアでは店員に二〇〇〇円払うことは当然であり、牛丼一杯が千円してしまうのは仕方ないことだ、という発想の元に成り立っているのです。人を人として大切にする、ないがしろにしない、助け合って生きて行く、という意識がオーストラリアではいたるところで強く感じられました。例えば、バイロンベイのコミュニティーの根底にあると僕が感じたのは至極人間らしい温かみであり、人を蹴落としてでも自分が上にあがろうとする競争社会の真逆にある発想でした。オーストラリアが幸福度数の高い国であり続ける理由は正にこういうところにあるのではないかと思い、目から鱗な経験でした。

 結局、オーストラリアには半年ほど滞在し、人生初の車生活を経験し、効率重視のオーストラリア社会の仕組み、コミュニティーを中心として存在する人と人とのふれあいや大自然の壮大な風景、厳しい環境の中で力強く生き抜いて行く動物たちから僕は数え切れないほどの新しい価値観を教わりました。

 オーストラリアの旅日記もインドと同様に三冊の書籍にまとめてあります。バイロンベイでの生活、ケアンズでの生活、そしてアウトバックを抜け、エアーズロックを訪れ、ダーウィンまでの道のりをエアコンの効かないオンボロ中古車のパスタ号と共に旅をしました。カンガルーをなでました。コアラも抱きました。カソワリーにエサもあげました。エミューたちに道をゆずりました。牛が全力疾走しているのも見かけました。通りすがりのエリマキトカゲとも瞬間を共有しました。これは半年に渡る僕のオーストラリア生活の記憶です。僕という心許ないフィルターを通してではありますが、オーストラリアの乾いた風を、燃え盛る山火事の熱を、肌をジリジリと焼き付ける太陽と強すぎる紫外線を少しでも感じてもらえるとこれ何より幸いです。

 オーストラリアから戻って来て早五年の月日が流れようとしていますが、心のどこかでバイロンベイに戻りたい、といつも願っています。バイロンベイ、本当に素敵な町でした。

 それではオーストラリア編、始まり始まり!

(はじめにより抜粋)

目次

旅と英語とギターと仕事 オーストラリア放浪記1
サンシャインコースト・ブリスベン・サーファーズパラダイス・ニンビン・バイロンベイ
J.チャイルズからのお言葉
はじめに
第一章 旅立ち 
『しばしばいばい、じゃぱん。』
第二章 サンシャインコースト
『灯りを付けましょボン・ジョヴィに。』
『ヌーサヘッドと雨の海水浴、そしてフェイスブックができるまで』
『暴風暴雨と曖昧な記憶』
『嫌がるオーストラリアのカワイコちゃんにいきなり抱きついて撮影までしてやった件』
『ティムタムのおいしい食べ方 ~オーストラリア』
『カンガルー肉で夕食を』
第三章 ブリスベン
『ポケットの中にはWi-Fiが一つ』
『おっさんたちとうまくやれ。』
『2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震』
『やらなきゃならないことをやるだけですよ』
『M9.0への情報修正とトモダチ大作戦』
『コニーとの再開/壁に壁画と書いてみろ』
『地震と原発とピザ』
『新しい調味料に出会う瞬間の感動』
第四章 ニンビン
『誰も知らなかったUnoの公式ルール』
『ニンビンチェストーナメント初日、全勝で予選通過!』
『ニンビンチェストーナメント二日目/まさかの結果に。』
第五章 バイロンベイ ゲストハウス生活
『バイロンベイベイベ』
『レンタカーでニンビンへ』
『オープンマイクで賞金五十ドルとったどー!』
『路美との遭遇』
『アドレナリンラッシュ』
『オジーナイズって言葉はあるの?/ドラムサークル』
『今日は何の日カレーの日。(もちろんゴールデンカレー)』
『部屋を探して十キロウォーク』
『ダウンタウンの部屋を確保!』
『オープンマイク再び』
第六章 バイロンベイ シェアハウス生活 前半
『引っ越し!』
『コスチュームパーティー in マルンビンビー!!』
『十四時間くらい寝たことになる』
『冬時間/プランジャーって聞くとトイレしか浮かばない。』
『じゃいぐるでぃーば/ヨシとの遭遇』
『悲劇は起こらないのではなく起こるまでに時間がかかるのだ。』
『毎日がEveryday!』
『A Happy Rainbow Day!』
『鼻の穴とはトンネルであり、おれは酸素中毒である。』
『トップレスガールズ考察/コンサート・フォー・ジャパン』
第七章 バイロンベイ シェアハウス生活 後半
『ベロンギルビーチはヌーディストビーチ』
『人生フラットに生きるか、シャープに生きるか、それが問題だ。』
『リチャージ式アラカルト』
『レタス入りのハンバーガー』
『リメイ式ホームパーティー イン Ocean Shores』
『あっちでだらだらこっちでだらだら』
『デスノートとかホームパーティーでのジャムセッションとか』
『バイロンベイ無料Wi-Fiスポット』
『ニンビン再訪/車を買うということ』
『本当に車を買ってしまうらしい件について』
『ついうっかり車を買ってしまった件について』
『ブルースフェスでにぎわう町並み』
『町で私はショッピング』
『やはりボブ・ディラン大先生は一度拝ませてもらおう』
『ラコナ!ラコナ!ラコナ!』
『バイロンベイブルースフェスティバル2011最終日!!』
第八章 バイロンベイ 車生活
『オープンマイク/引っ越し=イエガネーゼ』
『再びリメイ宅へ』
『再びリメイ宅へ その2』
『マルディ・グラス・イン・ニンビン』
『車の名前は「パスタ号」に決定』
『今再びのバイロンへ/キャラバンパーク』
『飛距離の長いアホな話』
あとがき
[24 Hours Project]について
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