著者:中井 一夫
ページ数:206
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西新宿の高層ビル街、能登の港町、富士山麓の湖畔の町、ヤセの断崖、月山を望む町……を舞台に、二人の波乱にみちた過去がつぎつぎと明らかになっていく。
そうして互いが「隣人の愛に救われる」という成りゆきに自然と気づきはじめる。
「投資の世界と決別し、男との愛や恋に生きがいを見いだそうとする女」と、「少年期からの〈女を愛せない男〉という一種の宿命から脱却しようとする男」の心の葛藤をえがいた。
◇◇一方、幼少時や少年少女期の「周囲の環境」「人間関係」「トラウマとなった出来事」などが、いかに爾後の性格や人格形成に影響していくか――逐次物語においてリアルに解き明かした。
◇◇また「演劇など様々な創作や演技」「種種の人物創作」、あるいは「日常における兵法的視点(彼を知り己を知れば百戦危うからず)」にかかわる〈対象への感情移入や創造力等〉――それらを養う日々の実践や考え方について、当小説という物語での独自の解明と解説を実現した。
【本文より】あらゆるシチュエーションでの、子供から老人まで、さまざまな人間心理を瞬間的に子細にえがくのに、その手のことを得意とする人間が先か、特化したAIコンピュータが先か、という話である。付言すると、古来の「顔を看る占い――顔相」や「人相学」では……
◇◇◇登場人物
◇西城美樹子:派遣社員/兼業個人投資家/二十三歳
◇七瀬広志:無為徒食の人/二十六歳
◇冬木哲也:美樹子の知り合い/株式個人トレーダー/三十代
◇未祐:美樹子の女友達/派遣社員/二十三歳 他
【本文より】(広志:中学生、ソラ:飼い犬、犬を攫う男)
突然、引き綱に繋がれた犬が見知らぬ男に連れ去られる異様な光景を、洋間の大きなガラス戸越しに広志は目撃した。犬は狂おしく首を振って唸り、見るから死に物狂いに抵抗したが、半ば力尽きて「きゃんきゃん」と鳴き無理矢理引きずられ連れていかれる有様だった。一瞬、目を疑ったが、その薄茶色の犬はソラにほかならなかった。たちまち戦き悲しみが走った。
すると憤怒の収まらぬ広志はあわてて玄関から飛びだした。犬を強引に連れていく男の跡を追った。
「犬泥棒のおじさん! いじめるの、やめて!」と広志がばたばた走る後ろの気配に気づいたのか、ソラはふたたび引き綱に必死に逆らった。小さな仁王立ちの恰好でこちらに白い腹を向けた。『助けて!』と言わんばかりに丸い目が悲しげに光った。だが、つぎの瞬間、引き綱が上に引っ張られ、首吊り状態になったソラは「きゃん」と短く鳴いてもがき苦しんだ。足をばたばたさせて体が時計の振り子みたいに揺れた。
……広志が走れども逃げる男との距離の縮まらないまま、もはやソラは力尽きたのか、「くうううっ」と胴体がだらりと垂れ下がった。口から泡を吹いてぐったりした様子だった。真相は犬泥棒や犬いじめではなく、まさしく犬殺しであったとは。しかも追いかけてから三分足らずの惨劇であったのか。
『まさか攫われたソラが首吊り状態になって、目の前で殺されるなんて!
どんなに苦しかったの? なぜ殺されたの?』
涙顔の広志は咄嗟に道端の石ころを拾って、悔しまぎれに男の足下めがけて投げつけた。踵に当たったのか、「痛い!」と男が顔を真っ赤にしてふり向いた。
《この小説の主たる場面や挿話は、実際に起きた出来事(事実/実話)を素材としている場合があります。或いは粗筋にそって脚色されています。》
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