著者:追田 亜斗夢
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四谷怪談は、番町皿屋敷、牡丹灯篭と並んで日本三大怪談として有名であり、鶴屋南北がその作者であることは広く世に知れている。しかし、これが他の完全なフィクションの怪談と違って、実在した人物をモチーフにして、元禄時代の怪奇な事件と組み合わせた半フィクションであることを知る人は少ない。
 主人公のお岩さん、実は江戸時代の初期、元禄時代(千六百八十八年から千七百四年)に生きた女性であるが、四代目鶴屋南北が創作のための資料集めとして、没後百年近くなってから、インタビュー目的に現世に呼び出したのである。
作品の完成後、鶴屋南北は自己のオリジナリティを主張するために、証人の招霊師を殺害してしまう。ために、黄泉の国に帰ることができなくなったお岩さんは、以後、二百年有余年、この世を彷徨うことになったのである。
 平成二十七年、ある夏の丑三つ時(午前二時)お岩さんは、定例の散歩中、張り込み中の若き刑事、太田康生と出会う。彼の容姿が伊右衛門に似ていたこと、幽霊を恐れぬ神経の太さに親近感を覚え、太田のマンションに押しかけて正体を明かす。
 傷害事件の逃走犯逮捕、美人モデル殺害の犯人特定と二つの事件解決をきっかけにして、太田と懇意になったお岩さんは、幽霊の正体が大気中の微粒子であることを説明して、ゆえに風に弱く、物体に触れることもできない悩みも打ち明けるのだった。
お岩さん、三百年ぶりに実体のある生活を体験したいと太田に協力を依頼するが、適度な死体が見つからず、失意しかかった。そんなある日。お岩さんは自殺未遂の若い女性の身体に入り込み、太田のマンションを訪れた。身体の泥落としにとお岩さんが入浴中、訪れた太田の婚約者有紀に誤解されるが、正体を明かして親しくなる。三人が歓談中に、お岩さんの後を追ってきた死体の所有者、芳年理奈の魂が現れて蘇らせる。
 お岩さんは、理奈の自殺の原因となった某テレビ局のディレクタに、幽霊の恐怖をトラウマとして脳裏に焼き付けて懲らしめた。そんな、陽気で愛すべきキャラのお岩さんだが、猟銃乱射事件の犯人を逮捕した頃から、元気がなくなる。これをホームシックと判断した有紀の提案で、太田たちはお岩さんを黄泉の国に帰すことを画策する。この計画に理奈も加わり、三人はお岩さんをスーツケースに入れて冬の恐山に向う。
数人のイタコの中から、本物のイタコに遭遇して、時空の壁に穴が開いた時、向こう側に愛する伊右衛門が出迎えに待機していた。手に手を取って、黄泉の国に帰えるお岩さんと伊右衛門夫婦を見送った三人は、帰途、下北の広大な満天の星空に感動する。そして、有紀と理奈が叫んだ。「お岩さん・・・さようなら。サヨウナラ、お岩さん」

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