著者:山崎雅弘
ページ数:28

¥250¥0

第一次世界大戦が終盤に差しかかっていた1917年、交戦国の一つとしてドイツと戦っていたロシア帝国の根幹を揺るがす大事件が発生した。首都ペトログラードが革命勢力によって制圧され、300年間続いたロマノフ王朝を崩壊へと追い込む「ロシア革命」が勃発したのである。

だが、この出来事は、単純な旧体制の崩壊と新たな政治体制(レジーム)の出現に留まらなかった。むしろ、ロシア全土に混沌と対立を生みだし、やがてユーラシア大陸を戦乱の渦に呑み込むことになる、社会的な大変動の引き金とも言えるものだった。

ロシア内戦は、巨大な帝国が耐用年数を迎えて崩壊した後の、新生国家の政治的支配権をめぐる争奪戦だったが、それは同時に、きわめて複雑で多層的な対立軸を持つ戦いでもあった。最終的に内戦の勝者となる「赤軍」は、まず第一次大戦の一環としてドイツ軍と戦い、偶発事件がきっかけで反乱を起こした「チェコスロヴァキア軍団」と戦い、共産主義の革命政権を敵視するロシア国内の諸勢力から成る「白軍」と戦い、その白軍を助けて共産主義政権を倒すことを目論んだ英仏両軍を中心とする「連合国軍」と戦うこととなった。

そして、ロシア内戦をより長い歴史の中で見れば、「資本主義」対「共産主義」という20世紀の大半を支配した対立構造を生み出す発端となった出来事でもあった。ロシア内戦に勝利した革命勢力「ボリシェヴィキ」は、ソヴィエト連邦という巨大国家を創設(1922年)し、アメリカ・イギリス・フランスなどの資本主義国を相手に、それから約70年にわたって、地球規模の政治闘争を繰り広げることになる。では、ロシア内戦とは具体的にどのような経緯で発生し、いかなる形で拡大していったのか。

本書は、ヨーロッパの歴史のみならず、20世紀における世界の歴史を変えるきっかけとなった「ロシア内戦」の原因と顛末を、俯瞰的に解説した記事です。2016年7月、学研パブリッシングの雑誌『歴史群像』第138号(2016年8月号)の記事として、B5判12ページで発表されました。

日本人にとってのロシア内戦は、縁遠いようにも見えますが、大正期の米騒動の一因ともなった「シベリア出兵」として、大日本帝国もこの戦争に深く関わっていました。また、「既存の社会構造を根底から変える共産主義の革命思想」と「その拡大を自国の脅威と見なして潰そうとした米英仏の資本主義国」という構図は、現代の「IS(イスラム国)」に対する有志連合の行動と似た一面を持っています。ロシア内部のさまざまな政治勢力に加え、欧米列強と大日本帝国の思惑が複雑に交錯した、ロシア内戦という近現代史の重要な転機について、全体像を俯瞰する一助となれば幸いです。

なお、シベリア出兵については、戦史ノート第70巻『シベリア出兵』でより詳しく解説していますので、併せてお読みいただければ、より理解が深まるかと思います。

《目次(見出しリスト)》

◆二〇世紀の対立構造「資本主義対共産主義」の発端となった戦争

《二度のロシア革命とロシア帝国の解体》
◆一九一七年のロシア革命はなぜ起こったか
◆「ロシア二月革命」を歓迎した米英仏などの連合国
◆ボリシェヴィキの躍進と「ロシア十月革命」の成功

《チェコスロヴァキア軍団の反乱とロシア内戦の本格化》
◆ブレスト=リトフスク講和会議とロシアの対ドイツ戦からの離脱
◆偶発事件だったチェコスロヴァキア軍団の反乱
◆連合国軍による「対ロシア干渉戦争」の始まり

《ロシア内戦の複雑な対立の構図》
◆白軍、緑軍とコルチャークの軍部独裁政権
◆四面楚歌の状況に陥ったボリシェヴィキ
◆各正面での白軍の大攻勢と赤軍の応戦

《各地で赤軍に撃破された反革命勢力の白軍》
◆ロシア内戦に投じられた装甲車と戦車、装甲列車
◆戦局の巻き返しに成功した赤軍
◆ロシア内戦が生みだしたもの

シリーズ一覧

  • 同シリーズの電子書籍はありませんでした。

 

  Kindle Unlimitedは、現在30日間無料体験キャンペーンを行っています!

この期間中は料金が980円→0円となるため、この記事で紹介している電子書籍は、すべてこのKindle Unlimited無料体験で読むことが可能です。

Kindle Unlimited 無料体験に登録する