著者:角間貴生
ページ数:64

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ふつう、天才というと近寄りがたい神のような存在を考えます。
でも、レオナルド・ダ・ヴィンチの素顔を研究すると、絶えず失敗ばかり繰り返しながら、それでも他人と違ったことをして生き抜こうとする、お茶目な実像が見えてくるのです。
彼は私生児であったばかりに、父親の財産も、名誉ある仕事も引き継ぐことが出来なかった。
彼は何としてでも自分で生きていかねばならなかった。自分で食っていかなければならなかった。
しかし、何をやっても中途半端、おまけに少年愛事件では告訴され、仲間のアーティスト達には先を越され、全く仕事の実績も作れない、どうしようもない男だったのである。
完璧主義の彼は作品を作ろうとすると、構想ばかりがとてつもなく広がり、収拾がつかなくなって、いつも途中で投げ出してしまうのが常だった。
だから、自分のどんな能力を売り込んででも、パトロンを見つけようと必死になった。
リラの演奏歌手であろうと、余興舞台の演出であろうと、パレード衣装のデザインであろうと、お笑い芸人であろうと何でも良かった。時には全く素人なのに、武器づくりのアイデアマンを売り込んだりもした。
やがて、彼は巧みな話術とカッコ良さで、人脈の中を泳ぎながら、新しいパトロンを見つけ、自由な創造時間を獲得し、様々な分野の研究を続け、膨大なノートを書き、いくつかの物凄い芸術作品を残すようになった。
彼は大変な努力家だったのである。
これはレオナルド・ダ・ヴィンチが政情の安定しないイタリア社会にいつも右往左往しながら、それでもパトロンの信頼を勝ち得ようと奮闘努力する…涙ぐましい「売り込み人生」の物語なのである。

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