著者:丸子 睦美
ページ数:87

¥300¥0

写真集『素敵なフィリピン』(おまけ:スリランカ、カンボジア、タイ またやってしまった旅の恥はかき捨て)

 フィリピン編は、山下財宝が隠されているというバギオ。泊まったホテルは、米軍兵のための病院施設になっていた「メイナー」だった。山地に追いやられたイフガオ族の住む山だから、あるいはどこかに金貨があるのかもしれない。
 「夫は山下財宝を掘り出して財を成した」というイメルダ・マルコスの証言は、嘘くさいが、今でも噂を信じて山を掘る人が大勢いるようだ。
 イフガオ族は、土着の民で、棚田で米作をしながら木彫りを作っているが、その木彫りの純朴で、美しいこと。デザインが、原初的でシンプル、縄文的。マレイからフィリピン、日本、そして黒潮で太平洋を渡って、マヤ、インカのデザインと共通しているように思える。木彫りのデザインを見ると、東南アジアの大陸の技法は、凝りすぎて、リアルで、悪魔的で、イフガオ、縄文、マヤ、インカの天真爛漫な表現方法とは別の系統だということがわかる。だから、チャイナやラオスへ行っても、木彫りのデザインが魅力的でないため、買う気が起こらない。
 タイの木彫りは、色を塗ったり、お光り物を貼り付けたりして付加価値で売っているが、イフガオは、彫ったらそのまま。タイとイフガオの規模理を対比させるためにタイの木彫り写真も入れておいた。イフガオの素朴で力強い木彫りは、東国縄文人の血を刺激して、時間が経つのを忘れて眺めていられる。
 作品は大きいし、しゃれたマニラのお土産屋で売っているわけではないので、イフガオ族の住む村に行って、現地の言葉のわかる人に頼んで交渉しないと買えない。将来大富豪になったら、イフガオの村へ行って、木彫りを大量に買い付けて、木彫りの部屋を作りたいという私の願いはまだ叶えられていない。
 マニラの蒸し暑さに耐えられなかった米軍兵がバギオに避暑地を求めたのは理解できる。上に一枚羽織っていないと肌寒いくらいの気温である。
 それにしても米国は1898年にフィリピンをスペインから、わずか2000万ドルで買ったとは、うまくやったものだ。それより前1867年に米国はロシアからアラスカを720万ドルで購入している。賢い。
 
 ちょうど日曜日の朝だったので、多くの人が教会に集っていた。フィリピンが残したカトリック文化が、この地に浸透している。イフガオは米作民で、縄文人と同じ自然物が神だから、教会へは行かない。
 教会が出たところで、タイ、バンコクのルーテル教会の礼拝風景を入れておいた。ご縁があり礼拝に参加させていただいた。椅子も座布団もない、板の間に直に座り、ギター演奏で、夜礼拝をやっている信者さんたちと時間を共有できたことを感謝する。
 
 カンボジアやスリランカは、写真のサイズが小さく、1枚で表示できないため、4枚1組にした。それらを撮影した当時は、写真集を出そうという気持ちが全然なかったから、サイズを気にしないで撮ってしまったのだ。カンボジアはアンコールワットとメコン川で、スリランカは、今となっては名前もわからない場所で、最後の踊り写真は、首都コロンボの国立劇場オーディトリウムでのディーパシカ舞踊団の公演だ。写真サイズがイマイチなので、載せるのはどうしようかと迷っていたが、まあ、心の中に溜め込んだ思い出を吐き出すためにも、2頁に押し込めてしまおうと思った。
 その公演では『川の流れのように』を踊ることになっていた。上演前に、舞踊団の団長ミヒリペンネ氏より、「マリカ、ソロ一曲じゃなんだから、もう一曲、即興で踊ってみないか」と言われた。
「はい、あそこにいる、団長の息子さんとご一緒なら」「デイシャ、いらっしゃい、マリカが、お前と一緒に即興を踊ると言ってるよ」
「わかりました、お父さん」
「そうね、何か、簡単なストーリーをつくりましょう」「オーケイ、おもしろそうだ」
「まず、あなたが一人で、人生を謳歌して気持ち良さそうに踊っていて。
少ししたら、私が和傘をさして上手から出てくるわ。
あなたは、私を目に留めて、興味をそそられ、話しかけようとする。
私はわざと聞こえないふり、見えないふりをして通り過ぎようとするから、積極的に捕まえようとして。
追いかけられているのを楽しんで、私は逃げるわ。
それで、最後にはあなたに捕まってしまう。
私たちは恋に落ちるわ。
私はあなたのエネルギーを全部奪って、そして、あなたは、そこに倒れて死んでしまうの。
あなたがもう動かなくなっていることを見て、私は自分の和傘を拾い、そして、先へ歩いて行くわ。
行くところがあるから」
「いいねえ、わかった、それをやろう」
10分で打ち合わせをして、本番になった。
笛と太鼓は、自由に演奏してくれた。
やっつけで作ったストーリーを踊りで演じた。
大喝采だった。
「どれくらい前からリハーサルしたのですか」と多くの人に聞かれた。
「10分で作ったわ」
「2週間前からリハーサルをしているのかと思いました」
とくる。
なわけないじゃないの、上演前に急に言われたのだから。舞台がうまく行ったあとの、高揚感。
外へ出ると、偶然、劇場の隣の敷地で、日本大使館主催の盆踊りをやっていた。着物の衣装のままだったので、大使館の方達が喜んで下さった。いいことがあった日は、楽しいことが次々に起きるものだ。
 私をスリカンカに招聘した主催者は、翌日、報道関係者を集めての記者会見を開いてくれた。テレビカメラの前で同じ踊りを踊ることになった。
「ハロー、マリカ」
「今日もよろしく、デイシャ」
「僕思うんだけど、ストーリー変えないか」
「どう変えるの」
「僕が死なないで、ハッピーエンドになるという具合にさ」
「あ、それでもいいわよ。
じゃあ、愛し合った後、死なないで」
「わかった、それで行こう」

で、結局、その男が2度目の結婚相手になったのだが、最初のストーリー展開になった。踊りをやっていると面白いことがたくさんある。
 
 私の写真集は固有名詞の前に通常『素敵な』という形容詞がつく。これは『客家を里を訪ねて: 東アジアの隠れユダヤ居住窟』と『あら見てしまったアラブ首長国連邦: 住民の2割しか国民がいない超富裕国』
以外すべての旅行写真集に当てはまる。ところが、今回の写真集『素敵なフィリピン』は、「おまけ:カンボジア、スリランカ」のほか「またやってしまった旅の恥はかき捨て」なんていう変なサブタイトルもつけてしまった。
 というのは、旅行写真集を編集していてわかったのだが、前回出した『素敵なタイランド』に出ている象に乗っている金髪と、今回象に乗っている黒髪は、違う人だけど、このような旅行写真集は非常に個人的なものなので、75億人いる人口の中で見て欲しくないその人が見る可能性は限りなく低いから、問題ない。
 

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