著者:GENJI
ページ数:31

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数年前になりますが、旧知の友人であるリバプール出身の旦那様と、その奥様のフランス人のご夫婦が、バケーションで日本に10日間ほど滞在するという連絡をいただいたので、それならばということで、2泊3日の京都旅行を提案して、一緒に旅行することになりました。

京都では、数々の世界遺産として国法となっている寺院や、仏教芸術の仏像などをめぐることができて、日本の文化の伝統に触れながら、日本の「ことば」についても、訪れる先々で日本語を聴き取りながら、片言の「こんにちわ」や「ありがとうございます」、さらには「まいど、おおきに」まで聴き覚えて、ひとつひとつのことばの意味を英語に訳しながら楽しい旅が進んで行きました。

お腹も空いてきたので、さてお昼の食事でも、ということで、銀閣寺の近くのお蕎麦屋さんに入って、おもいおもいの日本食を注文をして、さあ、食べましょうとなりました。

「いただきます」

と、いつものように食事の前に唱えたのですが、この「ことば」にも興味が惹かれたようで、「その日本語はなんていう意味?」と聞かれました。

では「いただきます」の英訳を教えてあげよう、と考えてみたところと、「Let’s eat」でもなければ、「Enjoy meal」とも、ちょっとニュアンスが違うことに気がつきました。

日本語の「いただきます」には、命あるものを食糧として「頂く」という感謝の気持ちが宿っているので、外国のひとの考える「食事を楽しんで」という英訳には違和感を感じました。

日本人の食文化の中には、魚にしろ、野菜や穀物にしろ、すべての生き物に「いのち」が宿っていて、それを人は生き永らえていくために食糧として、その「いのちをいただく」という教えがあります。

食事のまえにかならず「いただきます」と唱えるのには、仏教の教えによって日本が培ってきた大切な感謝の「こころ」があり、ただ食事のきっかけの「ことば」として英訳してしまうだけで、このご夫婦に、日本人が伝承してきた「ことば」の文化の本質を伝えていないことになるのでは、と考えました。

このように、日本語にはその言葉を唱えることで、「言霊」として言葉の中に包含されている人々の想いを伝えることができるのだろうと感じたのです。

そして、「いただきます」のように、単純に英訳しようとすると、その言葉に包含されている、日本人が長い時間をかけて伝承してきた、文化や「こころ」が伝わらない、日本の「ことば」がいくつもあることに気がつきました。

日本人の文化と理念として、大切にしていきたい日本の「言霊」をいくつか拾っていきながら、その「言霊」に込められている意味をひも解いていきたいと思います。

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