【無料で読める】機械学習のための線型代数と解析学

【本書「はじめに」より】本書は,機械学習の理論を学ぶにあたって用いられる線型代数および解析学(≃微分積分)の最小限の知識をまとめたものである.これから機械学習に入門する人,あるいは大学初年度レベルの実用的な線形代数・解析学の予習・復習をしたい人を対象として書いた.筆者が本書を執筆する上で重きを置いた点は,• わかり易さ:論理や数式の「飛び」をなるべく小さくし,豊富な例やカラフルな図を用いて説明を吸収しやすくした• 動機の明確さ:「何故このような概念を定義するのか?」が分かるよう,重要概念の導入部をストーリー仕立てにして受け入れやすくした• 厳密さ:証明にごまかしがないように努めた(紙面の都合上やむを得ず簡略化したところではそう断るようにした)• 使いやすさ:式や定理など,参照して用いるような箇所は全てハイパーリンク(クリックやタップでリンク先へ飛べる)にした確かに本書は,図以外の部分は高校の参考書のようにカラフルではないし,口調も少し堅苦しく,敷居が高く見えるかもしれない.しかし,それはあくまで外見だけの話である.本書を読み進めて頂ければ,きっと読者は本書に親しみを覚え,読むのが楽しくなってくるに違いない.座右の書とまでは行かないまでも,本書が読者にとって信頼できる学友となってくれれば幸いである．機械学習で必要となる数学には,大学で習う範囲の内容も多く含まれる.高校数学と大学数学の間には大きなギャップがあるので,本書ではなるべく,高校数学との接続を意識して書いた.なお,前提知識としては一応高等学校までの数学を仮定するが,本書の大部分は義務教育レベルの数学の知識だけで読み通せるであろう.しかし,学習の進め方は高校までの「公式暗記→演習」という流れから,「定義→定理→証明→演習」という流れに移行する必要がどうしても生じる.その流れに付いていくためには,本書全体を漫然と眺めるのではなく,一行一行を丁寧に,自分なりに理解しながら進め,計算が必要なところは必ず自分でペンを持って計算し直すことが肝要である.高度な内容を含むため初学では飛ばすか,結論だけ頭に入れておけばよいと思われる章及び節には「 * 」印を付けた.読みやすさを考慮して,各「定理」「命題」「系」「補題」「コメント」「例」は枠で囲み,それぞれに通し番号を付けた.また,各証明の終わりには記号「 □ 」を付けた.章末の演習問題には解答を付けたが,勿論最初は答えを見ずに自分の頭で考えなければ身に付かないであろう.また初学者には難しすぎるため,飛ばしてもよいと思われる問題には「【難】」マークを付けた.第 I 部では,集合や写像といった基本的な概念を学ぶ.同時に,高校で習う論理や証明などの基礎事項も復習する.第 II 部で学ぶ線型代数は,…（中略）…第 III 部では,解析学を学ぶ….（中略）…線型代数と解析学の知識なしで機械学習を学ぼうとすることは,登山道具なしで雪山に入ろうとするようなものだと言うことができよう.本書の正誤表や,本文・演習問題中で用いたソースコードは https://github.com/YouTakaoka/ml_math_text にある.また,本書に沿った動画講義を https://www.youtube.com/playlist?list=PLTpQtT3wKo_iPvI1QoOjYqmr2YJ1rh49t にて公開している(随時更新中)ので,ネット環境が整っている人は本書と合わせて理解に役立てて欲しい.最後になるが,石井良平氏および篠倉智則氏には,精密なチェックと有益なコメントを頂いた.この場を借りて感謝の意を表する.【第II部冒頭より】線型代数という,この数学のみならず物理学,工学などあらゆる理工学系の学問の基礎を成す一大分野には,いくつかの側面がある.すなわち,• 一次方程式系(一次連立方程式)を研究するための道具• 行列・ベクトルといった道具の操作論• 線型空間(あるいはベクトル空間)の理論である.このそれぞれの側面をバランスよく混合した形で話を展開することを目標として書いた.その試みが成功していることを願うばかりである.機械学習で用いるベクトルや行列はほぼ全てが実なので,本書で扱う線型代数の理論は殆どの部分が実数体上の線型代数である.従って,殆どの部分は複素数に関する知識なしで読み通せるはずである.しかし,第10章ではやむを得ず複素数の知識を前提にした.複素数の基礎知識については付録Bを見よ.【第III部冒頭より】解析学とは,微分積分学および,そこから発展する様々な数学の研究分野の総称である.本書で扱うのは,そのほんの入り口であり,特に複素関数論に関しては全く扱わないことにした.従って,本書で扱う内容は主に一変数および多変数の実関数の微分積分である.