著者:呂辺 夭 loveyou
¥527¥0

超長編スピリチュアル大河小説です。本にすると、二冊分。読み応えあります。
作品の概要
 すべての生命の形は光であり、光たちは自らの未来へ進化を選んだ。愛の光は大宇
宙のすべてを受け入れようとした時、地球(ブルーアイランド)との遭遇を果たした。
ブルーアイランドはあまりにも美しく、光たちを強い引力で引き込んだ。光たちはそ
の青い星に憧れ魅了され、星に抱かれることを自らの成長の過程だと捉え、次々と光
が青い星へと跳んだ。・
 しかし、それによって光の未来は徐々に歪み始め、光が育む愛の波動が激しく打つ
こととなり、光の未来に暗雲が掛かるようになってしまった。ブルーアイランドに暮
らす人々は、争い、ぶつかり合い、星の隅々にまで悲しみが蔓延した。・
 光の道を目指すミルダは、光の未来が歪んだ原因の狂気との戦いの渦に巻き込まれ
ていく。それでも、ミルダは自らの目指す道を突き進み、黒く尖った山へと光を求め
ていく。森で知り合った仙女キリコと共に悪魔との戦いへと挑み、地上の自らの死を
も乗り越え、ミルダは大きな成長を遂げる。・
 一方、狂気が渦巻く魔界の森には、白い石の都市より「ネズミ捕りの笛吹き男」に
連れてこられた悲しい運命を背負った多くの子供たちがいた。子供たちは何の希望も
持たないまま、魔界の森で笛吹きの悪魔に縛られ続けていた。ところが、一人の子供
が森から消えたことで、ほんの一部の子供たちだけが自分たちの未来を考え始める。
魔界の森から出ていこうという意志が芽生える。・
 そんな子供たちの変化が森の魔女リュリュには見えた。長年仕えた悪魔への憎悪が
芽生え、リュリュは子供たちの変化に同調していく。・
 ミルダとキリコが悪魔に向かう。キリコとリュリュがその戦いの中で再会を果たす。
昔、共に悪魔に人生を狂わされた悲しい運命を持つもの同士だった。ミルダの戦いに
リュリュも加わる。悪魔から子供たちを助けるべく三人の戦いは、魔界を越え、幻想
の世界「グリーンアイランド」へと流れていく。・
 グリーンアイランドでミルダは皇帝ラ・ムーと出会う。ラ・ムーはミルダを更なる
戦いに導いていく。魔界の都市アールガルズの支配者、鬼神ロキの狂気の計画を阻止
すべき、ミルダは再び立ち上がる。しかし、ロキの後ろには双頭の竜が控えており、
ラ・ムーすらその竜に神を見、跪く。・
 最強のロキは魔界だけではなく、ブルーアイランドにまで狂気を降らす。地上の
人々を死へ誘い、魔界にすら辿り着けないような仕組みを編み出し、果てしない狂気
を膨れあがらせていく。その働きは双頭の竜さえも満足のいくものであった。ロキは
自らを物質の波動に乗せ地上へ降りる。ロキによる狂気が地上で激しく渦巻く。・
 ミルダは皇帝ラ・ムーの制止を振り払いロキとの戦いに臨む。時空を越え、ロキの
背後に控える双頭の竜にまで迫る。ミルダの魂の戦いだった。・
 ミルダはその戦いの中、光の世界である「ホワイトアイランド」へ導かれていく。
「ホワイトアイランド」はすべての光たちの母であった。すべての光たちの父であっ
た。そして、すべての光たちそのものだった。・
 ミルダは「ホワイトアイランド」に抱かれ、遙かなるいにしえの記憶を蘇えらせる。
我々すべてが元は一つの光であり、光の成長のために光の形を変えて未来へと進んだ。
あの双頭の竜(ペリポラー)も我々と同じ光だったのだ。しかし、ペリポラーはいに
しえの地球との遭遇の時、あまりにも美しいその星の側にいた光たちだったのだ。地
球の強すぎる磁力に宇宙の果てまでどこまでも飛ばされてしまった光たちだったのだ。・
 ミルダはペリポラーの狂気を理解する。宇宙の果てでペリポラーは狂気を掴んだ。
激しすぎる狂気しか、光が宇宙の闇から脱出する術はなかったのだ。ミルダはペリポ
ラーの狂気を責めた。ペリポラーが狂気を嵐に変えた。・
 仙女キリコが子供たちを救い、魔女リュリュが笛吹きの悪魔を救う。子供たちも成
長し自らの意志で魔界を出ていく。・
 そして、ミルダは再びホワイトアイランドに抱かれる。ペリポラーが光だった頃の
愛をかすかに意識に浮かべる。それぞれの思いが確実に形を取っていく。・
 ペリポラーがホワイトアイランドを越えていく。ミルダに別れの言葉を残して。・
 ミルダと子供たちがグリーンアイランドひまわりの群生地で再会する。魔女だった
リュリュの涙がミルダには果てしなく美しく見えた。
本編
ホワイト・アイランド  呂辺 夭 love you
序章
ここ十日程、激しい頭痛が、不吉な予感の耳鳴りを伴って皇帝ラ・ムーを襲い続けていた。
「ムー帝国の将来と、国民の平安を守らせたまえ…」
透明なる宮殿で膝を折り、ラ・ムーは、長い時を祈りに捧げた。
 繁栄の絶頂にある者の不安だった。奢りというものがこの国を包み込み、人々の欲望が神への祈り
を遠ざけていく。今の栄華は、神より授かったものなのだ。神の大恵をおろそかにしてはいけない…。
 頭痛は後頭部にまで拡がり、眉間の皺が増え、ラ・ムーの心は乱れ揺れた。
青空には雲ひとつなかった。帝国の限りない繁栄を約束するかのように、どこまでも澄んでいる。
自らが纏う白い法衣にも、太陽の恵みが燦々と降り注ぐ。
 あー、神よ。この恵みを永久に…。ラ・ムーの身体は小刻みに震えた。
「神の恩恵に慣れ、感謝を忘るるなかれ! 今の繁栄は、見せかけにすぎん…。皆が心から神に感謝
し、我と共に清らかな魂にて神に祈ってこそ、本当の繁栄が神によってもたらせられるのだ。国民よ、
奢ることなかれ!」
ラ・ムーの叫びだ。しかし、叫びは皇帝だけのものだった。人々は私利私欲へと流されていく。き
らびやかな装飾品を飾り、色鮮やかな衣装を身に纏い、美しい数々の宝石を求め奪い合う。神への忠
誠をおろそかに、上辺だけの祈りを繰り返す。澄みきった青空も、眩いばかりの太陽の輝きも、紺碧
なる大洋も、そして、石造りのこの大都市ムー帝国も、すべて神の成し遂げられた偉業のひとつなの
だ。我々は単に、神の僕(しもべ)に過ぎない。
「国民よ、奢ることなかれ!」
 頭痛と耳鳴りは止まない。眉間の皺が深くなる。訳の分からない不安が募る。
 うるさいほどのセミの声はどうしたのだ…。スズメたちの囀りも聞こえてこない…。いつもの朝と
違う…。祈りへの集中が散漫になる。神殿内が暗くなる。どこからか現れた黒い雲が上空を覆う。
「神への感謝を…」
 スズメたちが、声もなしに空へと昇っていく。暗雲が宮殿に闇をもたらし、風が強くなっていく。
「どうしたことなんだ…」
 不安の的中を思った。この時刻、聖なる祈りの時刻に、雲が宮殿を覆ったことはなかった。スズメ
たちが、空へ逃げていくことなどなかった。セミたちが、沈黙していることなどなかった。
「どうしたことなんだ…」
 足音がこちらへと向かってくる。神聖なる時に宮殿に近づく者がいる。訳の分からない不安が、皇
帝の中に形取っていく。
 神よ…。余りにも唐突に…。背中に悪寒が走り、涙が一粒、ラ・ムーの頬を静かに伝わる。
「申し上げます」
戸口の向こうから、絞り出すような声が届いた。ラ・ムーは、視線を地面に落とした。
「神よ! あなたは、我々に更生する機会も与え賜わんのか…。余りにも、唐突ではありませぬか…。
神よ! 偉大なる神よ、どうぞ、我々を救い賜え。このムー帝国を!」
ラ・ムーは一心に祈った。それしか、皇帝には成す術がなかった。
「申し上げます! 皇帝!」

それは、地鳴りから始まった。地鳴りは、ムーの都市を恐怖へと落としこんだ。地面を強烈に震わ
せ、人々をパニックへ誘った。森林から大轟音と共に大火柱が噴き上がり、都市の大地が激しく躍り、
至るところに大きな口を開ける。地割れの底から熱泥が沸きだし、逃げまどう人々を飲み込んでいく。
 凄まじい雷が縦横無尽に暴れまくり、天の怒りを人々に見せる。突風に建物は次々と倒れ、砂塵を
巻き上げながら数多くの人間を下敷きにしていく。大地の亀裂から流れだした熱泥が、倒れた建物を
次々と飲み込む。大火柱が雷と争い、激しく稲妻に向かった。地上は硫黄のガスに覆われ、無数の人
間が倒れていった。地獄絵図がムー帝国に繰り広げられた。
ラ・ムーは、荒れ狂う風の中、神殿の櫓の上に立ち片手を天に向けながら叫んだ。
「最期の時が訪れたのだ。あー、皆のもの…。我は、このことのあるのを予言しなかったか!」
人々も叫んだ。しかし、それはラ・ムーにまで届かない。
「ラ・ムーよ、我等を救いたまえ!」
櫓から見えた。異常に盛り上がった大山脈のような黒い影が。大津波だ。
「神よ、偉大なる神よ! どうぞ、我等を救いたまえ!」

太陽の帝国…。古代の大都市ムー帝国は最期を迎えた。皇帝ラ・ムーは、偉大なる神に祈りながら
透明なる神殿と共に大津波に飲み込まれていった。
 

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