著者:あまま
ページ数:38

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ユダヤ人は、よくこのように言われる。
これは、ユダヤ人がいかに物事を客観的に見て状況判断をしているか、その独特な物の見方をよく表した言葉だ。
例えば、日本人は、「物事は『多面的』に考えなくてはならない」などと言っているが、日本人の言う『多面的』とは同じものを違う角度から見るということにすぎない。
つまり、見る自分が色々な角度に動くだけだ。
主観が常に同じだ。
自分のいる次元は変わらない。
一方、ユダヤ人の言う二方向というのは、自分が見る対象が逆に自分を見るとしたらどう見えるか、という二方向だ。
主客転倒する。
別次元だ。
例えば、「リンゴが木から落ちる」のを見て秋の寂しさを感じ、「古リンゴポトリと落ちる秋の空」などと俳句を考えるとしたら、それは日本人的発想、「なぜリンゴは落ちるのか」と考えるとしたら、それはイギリス人的発想で「なぜ、リンゴは天空に吸い上げられずに地球の方に動くのだ?」と考えたとしたら、それは非常にユダヤ的発想だ。
日本人もイギリス人も地上に自分を置いている。
ユダヤ人は天空と地球を手のひらに置いて別次元から見るのだ。
太陽が東から出て西に沈んでいくのを見て、太陽が天空を動いているのはなぜかと考えたとしたら、それは、コペルニクス的発想で、太陽と地球両方を自分の手のひらに取ったらどう見えるのか、と考えるのがユダヤ的発想だ。
日本の小学校で、生徒が「先生、なぜ一週間は七日なんですか?」と質問し、しつこく食い下がったら、多分日本の先生は、その子を授業の進行の邪魔と考え相手にはしないだろう。
しかし、日本以外では、そんな子を大切にする環境の国が多い。
例えば、望遠鏡を渡すと逆から覗き込んで面白がるような子がユダヤ人なのである。
つまり、ユダヤ人というのは常に人とは別の角度、別の立場から物事を見ているということである。
この表情をビジネスに当てはめてみると非常にわかりやすい。
ユダヤ人は、常に、世の中の流れとは逆の発想でビジネスに取り組む。
数十年おきに世界を襲う大不況や経済危機の予兆をいち早く感じ取り、ビジネスに被害が及ばないうちにさっさと撤退するか、路線を変える。
世の中が好況に踊っているときには、皆と一緒に浮かれることなく、手を広げすぎるリスクを避け、慎重に行動する。
これがユダヤ式のリスク管理であり、また「お金儲け」の鉄則でもある。
この考え方はビジネスに限ったことではない。
物事には何にでもリスクがあるとユダヤ人は考える。
その意味で言えば、ユダヤ人には「想定外」という言葉はない。
どんな災難や危機も「人生には起こり得ること」と受け止めて、それに備える。
だから、いざというとき慌てない。
パニックを起こさない。
ユダヤ人にとって、こうした考え方は「呼吸するように身についた習慣」なのである。
ではユダヤ人はどのようにしてその習慣を身につけてきたのか、その背景には、「聖書に書かれているような想定外の事態」をビブリカル(聖書的)と言うほど、想定外の出来事に満ち満ちたヘブライ聖書を常に読んでいることの他に、数千年に及ぶユダヤ人迫害の歴史がある。
国土を持たないユダヤ人はさまざまな国で、人々の偏見にさらされ、いわれなき罪に問われて迫害を受けてきた。
二十世紀には、ヒトラーとナチス・ドイツによって引き起こされたホロコーストで六百万人ものユダヤ人が虐殺された。
そうした悲劇の歴史の中でユダヤ人が、困難を切り抜け、生き延びて来られたのは、ヘブライ聖書とタルムードという知恵の安全律があったからだ。
どんな困難に巡り合っても、ユダヤ人は常にヘブライ聖書とタルムードの律法に身の処し方、決断のアドバイスを求めてきた。
いつもその判断が正しく、安全であるからだ。
生きるために、日々の幸福を得るために、ユダヤの人々は常にヘブライ聖書とタルムードを勉強している。
この二つはユダヤ人の人生の羅針盤とも言える。
日本ではハウツー本がたくさん出版されているが、ヘブライ聖書とタルムードは昨日今日書かれた本ではない。
特に聖書は数千年も前に書かれたのに今でも世界のベストセラー第一位であり続けている。
イスラエルのクイズ番組で、一等賞にタルムード全三十数巻が当たると最も喜ばれる。
ヘブライ聖書は約三千年前(ユダヤ人民族は約五千年前に誕生したといわれる)、タルムードは約千五百年前に、今の形ができたと言われている。
ヘブライ聖書は、モーゼ五書、別名「トーラー」と呼ばれる「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」の書物が基本になっている。
そして、口伝律法とヘブライ学者の議論を書き留めた議論集が、「タルムード」である。
タルムードとは、古代ヘブライ語で「研究」「学習」を意味する言葉。
盛り込まれている内容は、日常生活の習慣や医学、衛生、子育て、紛争解決、家庭から恋愛、セックスにいたるまで、あらゆる事柄についてのいろんな規範とそれに関する議論のすべてを記してある。
四百ページからなる書物が三十冊以上ある膨大な量で、今のイラクのバグダッドの地がバビロニアと言われていた時代に中心的に書かれたので、バビロニア・タルムードと呼ばれる。
ユダタ人はこれを毎日少しずつ読んで勉強するのである。
議論集としては世界最古で、かつ、世界最大と言える。
ユダヤ人は世界で最も議論好きな民族と言われる所以である。
そして、このタルムードの議論を幼い子から大人まで理解し納得できるように、ユダヤには膨大な説話が残されている。
昔からユダヤ人は「文字の民」と言われ、記録を大切にする民族だったが、こうした説話も各地で書き継がれ、語り継がれて、人生をより良く生きる知恵として残してきた。
ユダヤの母親は子供が幼いうちから、ヘブライ聖書やタルムードの教えにまつわる説話を繰り返し読み聞かせ、語って聞かせる。
そして説話に登場した人間や動物たちの取った行動を「あなたならどうする?」と問いかける。
子供が答えると「それはどうして?」とまた質問する。
こうした説話で繰り返し語られるのは、人生で起こりうるさまざまなトラブルである。
そこで、子供は母親から「あなたがこんな目に遭ったらどうする?」と、問いかけられるのである。
どうすればその困難を無事切り抜けられるのか、子供は必至に考えて答えを見つけようとする。
そして「僕ならこうする」「私ならこんな方法を取る」と、工夫やアイデアを子供の方から導き出させるのである。
こうしてユダヤの子供たちは、母親から語られる説話や小説の中で、自然な形で「リスク・コントロール」や「リスク分散」ということを覚えていく。
ユダヤ人でビジネスの成功者が多いのは、幼い頃からビジネスの基盤となる「リスク」という概念を、さまざまな視点から捉える訓練を積んでいるからだと思う。
例えばユダヤ人は食事の時によく議論をする。
「神は全知全能である。よってご自身が動かすことができないほどの岩を作ることができる。だから神は全知全能じゃない」この三段論法がなぜ変なのかということを真剣になって議論するのだ。
ヘブライ聖書やタルムードにまつわるさまざまな説話は、人生に起こり得るあらゆる問題を知り、柔軟に対処する術を身につけるための尽きせぬ知恵の宝庫である。
ユダヤ人は幼い頃からこの知恵の宝庫に学び、考え、自由奔放に思考を巡らせ、困難を切り抜けてきた。
災害や経済危機など、今、世界に起きているさまざまな不穏な出来事を、世界のどの民族より早くユダヤ人たちは敏感に察知し、あるいは「想定」し、それに備えてきた。
重要なのは、この知恵が決してユダヤ人だけに通用するものではなく、人類全体が生き残るための最善の方法を示唆しているということだ。
つまり、ユダヤの教えは、私たち人間が悩んだり苦労したりするのを見越して、普通ではない全く別の角度からの視点、視座を与え、それを解決するヒントを与える、現代にも通用するバイブルだと言っていい。
説話の内容は、数千年たった今でも色あせることなく、私たちに真実を語りかけてくる。
マネー、ビジネス、人生に降りかかるさまざまな困難の乗り越え方など、現代の日本人にこそ学んでほしいことがたくさんある。
ぜひ、ユダヤ人が五千年もの間語り継がれてきた説話から、より良い人生を送るヒントを見つけてほしい。

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