著者:曽田博久
ページ数:342

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 失脚した新井白石は病と孤独と世間の冷たい視線に耐え、権力の報復に怯えながら、書いても世に問うことが憚られる著述に打ち込んでいたが、家庭内においては行き遅れた長女の結婚と言う大きな悩みを抱えていた。
 縁談がまとまらない原因は、白石が将軍家宣の政治顧問として執筆した武家諸法度にあった。
 白石は退廃した士風と拝金主義を一掃するために持参金禁止を定めた。ところが誰一人法度を守ろうとはしなかった。白石の娘を望む者さえも平然と持参金を要求した。怒った白石はことごとく縁談を断ったのであった。
 だが、家宣家継父子が相次いで死に、将軍が吉宗に代ると、白石は栄誉の頂点から失意のどん底に叩き込まれる。栄職にあった時ならいざ知らず、有能過ぎたがゆえに嫌われた白石に縁談を望む者は絶えたのであった。
 ようやく見つけた縁談も決して満足なものではなかったが白石は縋り付く。不憫な娘の幸せを願い、自ら易を立てる。その結果が不安で友人に相談し、最後は妻と義母にも籤を引かせに行く。
 何とか決まるも、白石の過去の政歴が災いして、またもや二転三転する。ようやく結婚に漕ぎつけたが、白石にはまだ二男一女が残されていた。六十二歳になった白石は七十歳まで生きられるとは思っていなかった。
 白石は残された子の縁談を進めながら、残りの人生のすべてを書くことに打ち込む。たとえ、今の世の人が読んでくれなくても、二百年三百年後の人に読んで貰うために。
 そんな老人に容赦なく不幸が襲い掛かる。
 火事で丸焼けになり、江戸の僻地代々木の荒れ野原に引っ越さざるを得なくなる。
 ようやく結婚出来た長男の初孫(男孫)が生れ落ちると同時に死に、病弱だった次男も死ぬ。嘆き悲しむ白石に、積年の持病が追い打ちをかける。だが、数少ない友人達と最愛の弟子と家族が白石を支える。会ったこともない二人の友人との文通が白石を励ます。白石は最後に残った末娘を結婚させると、残った力を振り絞り、「古代史疑」を書き上げて力尽きる。
 享年六十九歳。
失脚後の七年を描く。

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