著者:小泉一雄
ページ数:91

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小泉一雄・『父「八雲」を憶う』 (2) 私への授業

 著者、小泉一雄(1893-1965)氏は、言わずと知れた小泉八雲・Lafcadio Hearn(1850-1904) の長男。作者自身の幼児・少年期の思い出や、父(パパ)小泉八雲を中心とする一家の生活や考え方が当時の風景とともに語られる。八雲の、家庭人として、作家として、教育者としての姿をリアルに詳細に、その東京時代を描いている。身近だった人から語られる興味深い内容といえる。

 『父「八雲」を憶う』の内容構成はつぎのとおり:
    ・東京へ来る前 (1)……既刊
    ・東京牛込 (1) ……既刊
    *私への授業 (2)(*マークが本電子書籍に収録するもの)
    海   へ (3)(以下は順次刊行予定)
    散   歩 (4)
    東京大久保 (5)
    本書を書くに先立ちて(5)

底本は約511ページにわたっているので、この内「東京へ来る前」と「東京牛込」の2篇(底本で117頁分)をこの電子書籍(1)として収録している(以下は順次刊行予定)。
                 *     *     *

 ある目的ではじめられた英語による勉強。当時の教育スタイルを反映してか、スパルタに近い様相だったようですね。父・ハーンから授業をフルで受けたのは、筆者の一雄氏、短い間だったようだが二男の厳氏。舞台は主に富久町の家。そこには体操用に鉄棒も作られていた。

「或る日父から日本語と英語と何方の勉強が好きかと質問された時、英語は巻舌の発音が多くて下品でみっともない、日本語の方が上品で好きだと答えますと、父はその通りその通りと大満悦でした。」

「    The candlestick-maker;
     Turn‘ em out, knaves all three!
 このknavesを父が字引で見ますと、童児、僕、不正直ナル人などとありました。これでは父の気に入りません。また他の字典を見ましたら、…………「駄目の字引!」父は字典を拗り出して私に正直ないの懶者の下品の人をあなた何といいますか?」と尋ねました。
「意地悪でしょう」と申しますと「否《ノー》」。
「じゃア馬鹿野郎ですか?」「否《ノー》、是《こう》フールです」。…………しかし、横着だけないです」
「じゃア箆棒奴《べらぼうめ》!」
私が思わずこう口を辷らすや、父は礑《はた》と膝を拍って「Very Good! Just so!」 私は恥しいような、可笑《おか》しいような、得意のような妙な気がしました。父が「箆棒奴!」と愉快そうに大声に叫んだのは一生の中この時だけでしたろう……。」

「父は本を開いて私に与え、「ここから《フロムヒヤー》」 と命ずるのです。読書中誤った発音をしたり、忘れている箇所が多かったり、ヘマな訳ばかりすると父は癇癪を起して「何んぼう駄目の子供!」と怒鳴りますが、もうこの「駄目の子供」が始る頃には、私は横面を平手で二ツや三ツはピシャーリと張られているのです。」

 ハーンの一面が、膝下に育った一雄氏の目を通して、赤裸々に描かれています。いずれのトピックも興味深い内容です。

なお、底本は『小泉八雲』 思い出の記/小泉節子・父「八雲」を憶う/小泉一雄 (第2版、1986 恒文社)
親本は小泉一雄 父「八雲」を憶ふ(警醒社、1931)。

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