著者:賭博好太郎
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筆者は健康や安心・安全を脅かすと認識されたモノを排除したり、反対に徹底的に利用したりするあらゆる思考や施策を「〈有害〉イデオロギー」と名付けた。本論では、〈有害〉イデオロギーは、人々が健康や安心・安全を求めてたばこや有害情報、ギャンブルなどの排除を行う過程で形成され、強化されていったことを述べた。合わせて〈有害〉イデオロギーの増幅要因や、〈有害〉イデオロギーが支配的になったことで生じた現象などについても考察を行った。
以上の考察を通して、以下のことが明らかになった。
- 〈有害〉なモノの排除をどれほど行っても理想的な社会は実現せず、むしろ社会の分断が助長されていること。〈有害〉なモノの発見のために全ての人が監視され、かつお互いに監視し合う監視社会が到来していること。
- 〈有害〉イデオロギーが支配的になったことで、人々が自らの自由や権利を進んで手放していること。健康や安心・安全が至高の価値とされ、それに反するような人間の営みが当然のごとく淘汰されていること。
結論では、(1)〈有害〉イデオロギーは非常に複雑なシステムに支えられていること、(2)〈有害〉なモノの排除は人々に善きこととして認識されていること、(3)〈有害〉イデオロギーは既に社会の隅々まで浸透していること、などの理由から対抗することは非常に難しいことを確認した。本論文のタイトルを「監獄の完成」とした所以である。だが、完成された監獄のもとであっても、諸個人が望ましいと思う生や社会のあり方を構想する自由までは、まだ失われていないことを最後に述べた。
【目次】
序章
本論文の問いとテーマ
本論文の概要
第1節.理論の提示:〈有害〉イデオロギーとはなにか
第2節.新自由主義と〈有害〉イデオロギーの関わりについて
新自由主義経済における「危機」の利用
第Ⅰ部.引き直される成人の境界
第1節.「特定少年」の論理と少年法改正の背景
第2節.「成人」の境界
第3節.先行研究について
◯たばこに関するもの
◯有害情報に関するもの
◯ギャンブルに関するもの
第Ⅱ部.喫煙者という〈有害〉な存在について
第1章.煙なき社会を目指して
第1節.新自由主義はなぜ健康であることを迫るのか――「健康増進法」の思想
第2章.火炙りにされる喫煙者
第1節.喫煙者排除の論理
第2節.エポックメイキングとしてのたばこ訴訟――囲い込まれていく喫煙者
第3章.実を結ばなかった抵抗
第1節.「“禁煙ファシズム”批判」の概要
第2節.小括:たばこ排除が強力に進んだのはなぜなのか
第Ⅲ部.すべて青少年の健全な育成のために
第1章.現行の「年齢制限」の仕組み
第1節.ギャンブルの年齢制限について
第2節.「R18」の諸相――映画、アニメ、ゲーム
第3節.「青少年」のインターネット規制
第2章.有害図書規制と青少年健全育成条例の思想
第1節.悪書追放運動の頃
第2節.「有害」コミック問題の頃
風俗統制の転換
第3章.越境する〈有害情報〉への恐怖と憎悪
第1節.「無垢」な子どもというレトリック
第2節.大人―子どもの関係の変化はどのように生じ、論じられてきたか
第Ⅳ部.矛盾したルール――「例外状態」のギャンブル
第1章.誰がために鐘は鳴る
第1節.草創期競輪の騒擾事件と廃止の危機
第2節.美濃部都政下の公営ギャンブル撤退と吉国懇時代
第3節.ギャンブラーはこの街にいらない――ギャンブル施設反対運動が拒んだもの
第2章.「パチンコ」という社会問題
第1節.なぜパチンコの「国籍」が問われるのか
第2節.依存「症」という病気について
第3節.「パチンコ依存」の検討
第4節.小括:〈有害〉なものの排除と容認の系譜
第Ⅴ部.監獄の完成―すべての人が安心・安全に暮らせる社会を目指して―
第1章.〈有害〉イデオロギーの増幅要因
第1節.監視カメラの登場と普及
2000年代前半における監視カメラを巡る議論
セキュリティを加速させる「メガイベント」
第2節.医学の発達
第3節.モニタリング監視の開発
第4節.新自由主義の台頭
第2章.〈有害〉なものに加えられる抑圧の整理:「過剰包摂」の概念を参考にして
第3章.すべての人が「安心・安全に暮らせる社会」とはどのような社会なのか
再々の確認:禁煙の推奨と生政治
第1節.〈有害〉イデオロギーへの対抗――一例としてのオキュパイ運動
結論:〈有害〉イデオロギーに対抗するには
参考文献
参考サイト
おわりに
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