著者:山下大輝
ページ数:81

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「大人になれば、もっと毎日が楽しいにちがいない」

小さい頃は漠然とそんなことを考えていた。まばたきをすれば、まつ毛が凍りつきそうな氷点下十七度、雲ひとつない晴天のある日。

天気とは対照的に山下大輝の気分は晴れなかった。なぜなら、世間で『社会』と呼ばれる場所に出てから四年、二六歳になった大輝は漫然と繰り返される毎日に嫌気が指していた。

「いま、自分は何を楽しみに生きているのだろう。」

 時折、そんなことを考える。しかし何度考えても答えは出ず、まるで出口のない迷路の中をいったりきたりしているかのようであった。自分がいる『社会』という場所は一種の牢獄のようだとも感じられた。

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