著者:神野 守
ページ数:44

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 第一話の「懐かしい後ろ姿」は、平成30年4月に小説投稿サイト「小説家になろう」で発表した作品です。その当時、車を運転する時にはいつも、竹内まりやさんの曲を流していました。切ない恋愛の歌詞が多く、まりやさんの声がまた哀愁を帯びていると言いますか。

 別れた相手を懐かしんだり、未練を断ち切って新しくスタートする主人公。曲を聴きながらその情景をドラマのように思い描いたりしていました。そうしているうちに、曲をモチーフにして物語を作ってみようと思いました。それは本来の作者が表現したかったものとは違うかも知れませんが、聴き手として感じ取ったものを二次創作してみるのも、オリジナル作品に対する愛情表現だと思うからです。

 この本の中にある全てが、既存の曲にインスパイアされて作ったというわけではありません。「切ない恋愛」と言うテーマで思い浮かんだ作品もいくつかあります。また、実体験を元に小説を書いて後から自分で作詞したものもあります。

 読者様から「この曲で物語を書いて」とリクエストをいただいたものも結構あります。リクエストされるまでは全く聴いた事がありませんでしたが、物語を書くために何度も聴いているうちに大好きになりました。これもまた、「運命の出会い」なのではないかと思っています。

 物語を読みながら、どんな曲にインスパイアされて作ったのかを想像していただくのも、作者としては嬉しく思います。また、作詞された方や作曲者された方、歌手の皆さんに読んでいただいてご感想をいただけたら、私としては無上の喜びでございます。

 この本をきっかけに、読者の皆様が知らなかった曲に出会えるかも知れません。そしてその曲に対する思い入れが深くなって、読者様の人生に幸福をもたらす事が出来れば幸いでございます。

目次
はじめに
第一話 懐かしい後ろ姿
第二話 あなたが好きな公園
第三話 夕陽の思い出
第四話 報われない恋
第五話 ある日、喫茶店で
第六話 君が出て行く夜
第七話 忘れられない初恋
第八話 紫陽花の涙
第九話 遥か彼方の空から君を想う
第十話 いつかの花火大会

第一話 懐かしい後ろ姿
 夕暮れ時の最寄り駅。家路を急ぐ人たちでごった返す。冬だと言うのに熱気が漂う。濡れた傘が手に触れて冷たい。人々にはあいにくの雨。でも、乾燥した街は息を吹き返している。

 待ち合わせていた恋人たちが出会う。クリスマスにはまだ早い。そんな事は、愛し合うカップルには関係ない。仕事を定時で終えた私。「今日は早く帰る」と約束してくれた彼。どんな美味しい料理を作ろう。そればかり考えながら歩いていた。

 ふと頭を上げた瞬間、ベージュの色が目に入る。

「あっ……」

 漏れそうになる言葉を慌てて飲み込む。あの色、あの背格好、あの歩き方、あの雰囲気。間違いない、あの人のコートだ。

 忘れたくても忘れられない、あの人……。最後に見たのは二年前の冬。懐かしく愛おしいその後ろ姿。あまりに驚きすぎて、心臓が口から出そうになる。

 早足で抜けていく改札。その癖(くせ)は今も変わらない。それだけで何故か、安堵(あんど)の溜息が漏れる。

 追いかけたい、声を掛けたい、私だよって知らせたい。勝手に動き出しそうになる右足。それを必死に抑え、「落ち着け」「冷静になれ」と心に言い聞かせる。

 呆然と立ち尽くす私の脳裏に、過ぎた日々が一瞬で蘇る。彼の笑顔、彼の寝顔、彼の怒った顔、彼の哀しそうな顔……。結局、私たちは別々の道を選んだ。

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