著者:水島 淳
ページ数:9

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はじめに
 反出生主義といえばデイヴィッド・ベネターのインパクトも強く、その書籍のタイトルが『生まれてこないほうが良かった』であるため、日本の知識人への当初の受け入れられ方は、文字通り生まれてこないほうが良かったか否かという問いに集中した[現代思想2019年11月号]。その後森岡正博は『生まれてこないほうが良かったのか?』においてショーペンハウアーの反出生主義思想を紹介している。
 ショーペンハウアーの反出生主義は、「生きようとする意志」の徹底的否定にある。そして射精を嫌う彼の思想にはセックスを否定する面がある。この点、ベネターの反出生主義よりも論理的に首尾一貫していると言えよう。ベネターは避妊や中絶をすれば、セックスの快楽を容認する。また反出生主義者の中には結婚する者もいる。
 しかしそれらは愛着という苦痛を生み出すものである。詳細は『感情主義から見る反出生主義の矛盾: 正しい反出生主義の構築を目指して』の中で論じたが、反出生主義を理性で構築するのであれば、そして反出生主義を、苦痛を減らそうとする思想であるとするならば、愛着も捨てねばならないだろう。こうしたことを考えるとショーペンハウアーの生きようとする意志の断滅、その先にある餓死という思想の妥当性が見えてくる。ショーペンハウアーの思想と反出生主義は、今再考されるべき時が来たのである。
 そこで今回は森岡正博のショーペンハウアーと反出生主義理解と銘打ち、『生まれてこないほうが良かったのか?』で示されたショーペンハウアーの反出生主義を紹介する。

著者略歴
黒薔薇アリザ
 1991年生まれ。皇學館大学文学部卒業。アナキスト、作家。社会運動のかたわら、トランスジェンダーとしての自身の体験をもとに、詩やエッセイを執筆。月刊誌『アナキズム』の編集にたずさわる。
krobara@protonmail.com

水島淳
 1991年生まれ。大正大学大学院文学研究科修了(文学修士)。小説、論文、学術書からエッセイまで幅広く執筆活動を行う文筆家。学術的専門は生命倫理学、宗教学。脳死・臓器移植の研究を専門としていたが、現在は反出生主義研究会を主宰し、反出生主義の研究を専門に行っている。反出生主義関連の業績としては「アニメ『ミュウツーの逆襲』と反出生主義 ― 「いるからいる」という誕生肯定との狭間で」、『アニメで学ぶ生命倫理――クローン、デザイナーベビー、反出生主義――』、『ひよこでもわかる反出生主義入門 Kindle版』、『〈生まれてこない方がよかった〉という嘆きをケアする』、『感情主義から見る反出生主義の矛盾: 正しい反出生主義の構築を目指して』などがある。
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