著者:河村次郎
ページ数:207

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 これで私が書いた哲学的短編小説集は七冊目になった。今回は心身問題を中心とした短編小説七編で構成した。
 心と身体の関係は古代以来、哲学の中心問題であると同時に人間である限り誰しも一度は深く考える普遍的問題である。それを出汁に短い物語で哲学的問題の奥義を象徴的に表現することは非常に意味深いことだと思う。
 本書を構成する七つの短編小説のタイトルとその意図するところは次のようなものである。

・「心身問題は不毛か」 とかく不毛だと言われがちな心身問題だが、それは一面的なことにすぎず、正しく問題を立てれば有意義なものになることを暗示した逸品である。心身問題はデカルトのように二元論に著しく傾斜すると不毛なものに成り下がる。それに対して、生命哲学と医学と脳科学と連携させ、かつそれらを意識哲学によって統制すると、豊かな成果を生み出すものになるのである。このことを読者はこの短編小説から読み取ってほしい。

・「脳が分かれば心も分かるのか」 脳科学が急速に進歩した今日、脳の仕組みと働きさえ分かれば心の本質も理解できるし、心の神秘は消え去ると考えてしまう。その代表が通俗的に理解された限りでの唯脳論であり、それは「脳しかない。心なんて幻想だ」という軽薄な思念を生み出してしまう。それでは駄目だ、ということを心身問題から心脳問題へと発展した心の哲学の方法を駆使して暗示したのが本作品なのである。脳は心の必要条件ではあっても、必要十分条件ではない、ということが理解の鍵となる。十分条件は生命の本質と環境世界の情報構造、あるいは生命と情報の自己組織性である。このことに目を開けない人があまりに多いので、私はこの短編小説を書いて、啓発しようと思ったのである。

・「先生、精神病者を人間として扱っていいんですか」 精神病の学生を人間として扱わなくてもいいと断言した哲学の教授がいた。そいつを人間の屑として断罪した衝撃の短編小説。この教授は若き精神科医の諭しにも屈せず、頑固にこの主張を貫いた。こんな奴はこの世で生きていく資格はないのである。実存哲学の権威は単なる科学音痴で医学嫌いの馬鹿だったという話。真の哲学者はこういう馬鹿の対極にいるはずである。要するに、哲学者たる者、精神医学と科学にも通じていなければならないのである。

・「ロビンソン・クルーソーは統合失調症になりうるか」 統合失調症は他者との関係において自己の自己性が揺らぐ脳の病気である。しかし、脳の病気だと言っても、脳腫瘍や脳出血や脳炎のような単純な物質的次元の病ではない。それは他者との関係性において脳のセルフモニタリング機能が破綻する精神的な脳の病気なのである。だから、人間関係のストレスのない無人島においては明確な統合失調症の症状は現れない。それに対して頑なに反論する学生の浅知恵を容赦なく暴いた啓発的短編小説。この学生は「目隠していても火傷はする」という屁理屈を盾に、脳病の客観的物質性を主張するが、その裏付けは薄い。物語は、その学生が自分の軽薄さを大火傷することによって痛感するという結末に至る。そいつは、しっかりと目を見開いて料理をしていたとき、熱湯を浴びて大火傷をしたのである。

・「「心は身体に表れる」というテーゼに軽薄な疑念を抱いた学生の悲惨な末路」 心身症と心身医学の存在を信じようとしない学生がいた。その理由は、医者が身体病の患者に対して心理的治療をしているところを見たことがないから、というものだった。こういう人間はほとんど本を読まないので、直接見たり聞いたりしたことを信じ、遠隔知覚や推論が苦手である。だから、普段目に触れない心療内科的診察の存在を信じないのである。では、自分が実際に心因性の重篤な身体病に罹ったら、どうなるであろうか。心理的治療をうさん臭いものとして退けるがゆえに、悲惨な末路に至るのである。人間は哲学的心身論によって思考が洗練されない限り、基本的にナイーヴな心身二元論を信奉し、「心は身体に表れる」ということの真の意味を理解できないのである。

・「意識と行動のリバーシブルな関係と脳の機能」 被服の様式としてリバーシブルというものがある。それが意識と行動の関係理解に直接適用できるのである。意識と行動は表裏一体の関係にあり、それはメビウスの帯ないし回転扉のような様相を呈している。そのことを脳の機能の理解と結びつけて論じた作品。話は次第に精神疾患における意識と行動の関係に移っていく。

・「「病は気から」という格言の犠牲となって自殺したうつ病者の話」 「病は気から」という格言は両刃の剣である。盲信すると大変なことになる。特に「気」自体が崩壊する脳の病いであるうつ病の場合、この軽薄な格言は危険なものとなる。過労とストレスからうつ病になった新聞記者が、産業医や内科医や精神科医のすべてから、不運なことに「病は気から」と諭され、先輩からもその格言による檄を飛ばされ、遂にそれを信じてしまう。さらに、酒に飲まれ、アルコール依存になってしまい、うつ病を拗らせ、ついには自殺してしまう、という話。この記者は「病は気から」という非医学的で非科学的で非哲学的な根性論の犠牲となってしまったのである。特にうつ病の場合、注意を要する。

 以上のように相変わらず面白そうな内容の短編小説群となっている。自分で書いていて大変楽しかったし、読者の方々にも楽しんでいただけるであろう。短編小説は書く方も楽だし、読む方も楽である。しかし、誰もが簡単に書けるというものではない。私は今回も短時間でこれら七編の短編小説を書き上げた。自分の中に三島のような才能を感じずにはいられなかった。

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