著者:山崎雅弘
ページ数:69

¥350¥0

私が神(アッラー)とその預言者(ムハンマド)に従う限り、みなさんは私に従ってください。もし私が、神とその預言者に従わなかった時には、私に従ってはなりません。
 ──ムハンマドの最初の後継者(カリフ)に選出されたアブー・バクルの最初の演説

2001年9月11日、世界を震撼させる大事件が、アメリカ本土で発生した。ハイジャックした民間旅客機を「体当たり兵器」として使い、アメリカの経済的繁栄のシンボルである世界貿易センタービルや、アメリカ軍の総本山とも言える米国防総省ビル(ペンタゴン)に突入させる、前代未聞の同時多発テロ事件である。

この事件の首謀者は「イスラム原理主義勢力」【*】の国際的指導者ウサマ・ビンラディンであったとされている。彼らは、アメリカを敵とする自らの戦いを「祖国と信仰を守るための『聖なる戦い』(ジハード)」と位置づけ、その崇高な戦いぶりを国の内外にアピールした。そのため、欧米の一部にはこうしたイスラム過激派勢力を「ジハーディスト」と呼ぶ動きもある。

だが、七世紀のアラビア半島で預言者ムハンマドによって開かれたイスラム教は、現在地球上に一三億ともいわれる信徒を持つ世界三大宗教のひとつだが、その教義は唯一神アッラーの下での慈愛と寛容を謳った、平和的で穏やかな教えを説くものだった。そして、本来のイスラムの教えにおいては、「ジハード」とは主に自我の克服や信仰への努力といった内面的な葛藤を示すものであり、決して対外戦争や外部への攻撃を積極的に正当化する意味で使われるものではなかったのである。

それでは、現代の国際政治において「ジハード」の名の下に武力闘争を行い続ける「イスラム原理主義勢力」とは、どのような集団なのだろうか。彼らはいったい何を考え、何を尊び、そして誰に対して『聖なる戦い』を挑んでいるのだろうか。

本書は、現代史における重大事件の一つである「9.11事件」とその背景となる歴史を、わかりやすく解説した記事です。2001年11月、学研パブリッシングの文庫本『現代紛争史』の収録記事の一本として発表されました。預言者ムハンマドとイスラム教の起こりから、20世紀初頭からのイスラム原理主義運動の隆盛、ウサマ・ビンラディンの波乱に満ちた足跡、そして最初はアメリカ合衆国と共に戦う「仲間」であったビンラディンが、一転してアメリカを激しく憎悪するに至った理由などを詳しく解説しています(下の目次リストを参照)。

2011年5月2日の米軍特殊部隊によるウサマ・ビンラディン殺害により、イスラム原理主義勢力による「無差別テロの脅威」は収束したかに見えましたが、2014年に入り、シリア北東部からイラク北西部にまたがる地域で「イスラム国(IS)」と名乗るイスラム原理主義勢力が国際社会に登場したことで、再び世界は緊迫した状況に引き戻されつつあります。2004年前後の一時期には「イスラム国」の前身組織「イラクの聖戦アル・カーイダ組織」とも連携していた、ビンラディンの過激派組織アル・カーイダの活動理念や、イスラム原理主義勢力の思想的背景を知る材料として、活用していただければ幸いです。

なお、本書の文章量は通常の「戦史ノート」シリーズ2冊分に相当するため、価格が350円となっています。

また、9.11事件に対する報復として行われた米軍のアフガニスタン攻撃、首謀者とされるウサマ・ビンラディンの最期など、本稿に続く展開については、戦史ノート第30巻『米軍のアフガニスタン戦争』で詳しく解説しています。

【*】イスラム原理主義勢力=「イスラム原理主義」という呼称は欧米の非イスラム社会による命名(キリスト教原理主義者、いわゆるファンダメンタリストとの対比)で、欧米キリスト教諸国では主に批判的な意味を込めて使用されていますが、当事者であるムスリムは「イスラム復興運動」等の呼称を用いています。本書では、それらを踏まえた上で、宗教上の原理原則(と自らが見なす解釈)を絶対視し、そこからの逸脱者や敵対者には暴力や破壊も厭わない勢力を指す意味で「原理主義勢力」という呼称を用いています。

《目次(見出しリスト)》

ジハード(聖戦)とはなにか

《第一部 イスラム原理主義運動の系譜》
「イスラム教」の誕生と発展
シーア派とスンニ派の確執
「イスラム原理主義運動」の形成

《第二部 米国CIAが育てた怪物たち》
アフガニスタン紛争とCIA
アメリカ政府とビンラディンの蜜月時代
アラブ・アフガンの切り捨て

《第三部 ウサマ・ビンラディンの孤独な戦い》
敬虔なワハブ派ムスリム青年の献身
湾岸戦争と米軍のサウジアラビア駐留開始
一族からの追放とサウジアラビア国籍の剥奪

《第四部 イスラム原理主義勢力による世界的ネットワークの構築》
エジプト・ルクソール観光客殺害事件
チェチェン紛争とボスニア紛争
キルギス日本人技師人質事件

《第五部 反米テロ活動の本格化》
アメリカ合衆国に対する直接攻撃の開始
イスラム原理主義勢力による反米共同戦線の結成
クリントン政権の大反撃

《第六部 2001年9月11日 新たな時代の幕開け》
全世界規模で繰り広げられた熾烈な暗闘
警告されていた「反米テロ攻撃」の実行
崩壊した「アメリカ経済繁栄の象徴」

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