著者:F・A・ハイエク
ページ数:102

¥380¥0

本書は、オーストリア学派の景気循環理論に関する論文集で、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス、マレー・N・ロスバード、F・A・ハイエク、ゴットフリード・ハーバラーによる4編の論文と、ロジャー・W・ギャリソンによる序文と解説が収められている。

 本書では理論全体を順序立てて説明している訳では無いが、難解といわれるオーストリア学派の景気循環理論に関して、どれも比較的平易な文章で書かれているので入門書としても適している。

以下、「訳者あとがき」より抜粋。

 オーストリア学派はカール・メンガーを始祖とするが、実際に景気循環理論の基礎を作り上げたのは次世代のルートヴィヒ・フォン・ミーゼスである。ミーゼスはThe Theory of Money and Credit, 1912[東米雄訳「貨幣および流通手段の理論」(日本経済評論社,1980)]でオーストリア学派の貨幣理論と景気循環理論を確立した。それ以前のミクロ経済学では貨幣の問題は扱われることがなかった。これらを扱おうとすれば、いきなりミクロ経済学と分断されているマクロ経済学の世界に入らないといけなかったのである。ところがミーゼスはミクロ経済学と同じ方法で、大雑把に言うと限界効用理論を貨幣そのものの需要と供給に適用して貨幣の問題を分析したのである。

 ミーゼスは同書で貨幣に続いて景気循環についても、本書に収められたミーゼスの小論にあるように、一般的なミクロ経済学の分析と統合した。政府および銀行の信用拡大が利子率・生産過程・生産構造・資本構造を歪めれば、最終的にそれらの是正が必要になるのは当然であろう。このようにミクロ経済学とマクロ経済学との間の壁はミーゼスによって取り払われたはずなのに、いまだにケインジアンの経済学が主流であるのは一体どういう事なのだろうか。

 本書に収められたミーゼスの小論は、元々Sociéte BeIge d‘Etudes et d‘Expansion (1936)の459-64ページに”La Theorie dite Autrichienne de Cycle Économique”として出版されたものである。

 ゴットフリード・ハーバラーは元々オーストリア学派の経済学者であり、Prosperity and Depression: A theoretical analysis of cyclical movements, 1937[宇治田富造訳「好況及び不況の理論――循環運動の理論的分析」、清和書房、1938年]などの著作を出版したが、彼は後に自身のオーストリア理論を撤回している。本書に収められた小論はもちろん撤回前に書かれたもので、Constitutional Alliance of Lansing, Michiganによって1969年にミニブックとして出版されている。ハーバラーはこの小論で景気循環を貨幣上で分析した上で、景気循環を考える上で最も重要な「垂直的生産構造」の歪みの問題を分析している。

 ロスバードの小論もハーバラーのものと同様に、Constitutional Alliance of Lansing, Michiganによって1969年にミニブックとして出版されている。ロスバードは自由な市場経済においては景気循環が起こらないことと、銀行の信用拡大に起因していることを説明し、不況対策もまた政府が何もしないことであると書いている。

なお、この小論の日本語版を訳者が「経済不況 その原因と対策」という1冊の電子書籍として2013年に出版している。今回再掲するに当たっては、ごく一部の文章を修正するにとどめている。

 ハイエクはミーゼスの景気循環理論を資本理論で強化したけれども、その理論は正直言って難解である。先日ある経済学者の著書を読んでいたら「ハイエクはケインズに対抗する経済学者、というよりも思想家であるが、オーストリア学派の経済学者として資本理論や景気循環論を展開しており、それを理解するのは一筋縄ではいかない」などと書かれていた(あえて書名は秘す)。専門家とは思えない情けない話だが、一般人にとっては尚更である。本書の小論の紙幅でそれを取り上げるのはさすがに無理であったと思われ、ハイエクは第一次大戦後のドイツで起きたハイパーインフレーションを念頭に置いたインフレーションの分析と、労働組合による賃金維持政策の大きな弊害について述べている。

このハイエクの小論は1970年にニューヨーク州タリータウンで財務省とFoundation for Economic Educationの参加者の前での講演録で、本書で初めて出版されたものである。

 ギャリソンはマクロ経済学者で、オースオリア学派における景気循環についての主要な理論家である。ギャリソンは本書の序文で上記4つの小論を論評し、最後の「オーストリア理論の要約」で、利子率を縦軸に、貸し出しできる資金を横軸にとった需要・供給曲線を図示して、オーストリア学派の景気循環理論の要点を見事に描き出している。

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