著者:上宮知樹
ページ数:24

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冒頭文

第十五章、鉄男再び

真田は暫しの休息を満喫していた。GHQからうるさく言われる事もない、それはこの仕事をしている者の特権だろうか・・・。真田は危険を避ける為、日本基地の居住区に住み、そこで生活していた。殴られた衝撃で首に痛みが残っていたが、日々の治療、もっともヒーリングマシンによるものだが、定期的にプレアデス人医師の診察も受けている事によって急速に回復していった。
エレナは一人の人間、妻として真田のそばにいる。仕事とは言え命の危険にさらされる夫を見ていて、気が気ではないだろう・・・。真田は愚痴が嫌いな性分なので、辛くても、怖くても弱音は吐かない方だ。ただ、コバヤシが真田の前に立ちはだかった事は不安だった。エレナに「コバヤシは見つかるのだろうか?」と尋ねると。
エレナは「そんなに時間はかからないと思うわ、もう捕まっているかも知れない、でも貴方の前に現れる事も無いでしょう・・・。イシカワが即座に手をかけるはずよ、彼は容赦しないと思うから・・・。ネターとウォルフも探しているしね、コバヤシがこんなに執拗な性格だとは思わなかったわ・・・」真田は「俺もショックだった、同じ日本人なのにどうしてこんなにも憎まれるのか?理由が分からない、もっとも、コバヤシだけで全ての事をしているわけじゃないと思うが・・・」
「彼の件が片付くまで、この基地で暮らすしかないわね・・・」エレナは宇宙船での生活はそれほど苦にならないようだ・・・むしろ外の危険さの方が心配らしい・・・真田は自分より宇宙人らしい妻に感心していた。これならどこの星に行っても生き延びるに違いない・・・。比べて自分はどうだろう?情けなさが残った・・・。
朝鮮戦争が終結に向かいつつあり、GHQの役割も日増しに少なくなる。いずれGHQそのものが日本から撤退する気配が濃くなっていった。真田はGHQでの仕事が終わった後は、日本基地の専属となり、もうアメリカには帰国しない予定になっている。表向きの仕事として、の近辺で古書店でも開こうかと考えていた。洋書の専門店なら需要があり、生活していけるかも知れないと考えていたのである。
戦後の混乱のお陰で、あちこちに空き地がちらほらと出ている。真田は休憩のたびにそんな空き地めぐり、路地裏を探索する冒険を楽しんでいた。

第十六章、黒い昴
ネターは日本で新型を試すという内容に付いては、気にしなくて良いという考えのようだ。
と、言うのは、日本もアメリカ並みに監視が厳しく、そうそう目立った事は出来ないというのが根拠らしい・・・。
だが、本当のところ何を考え、計画しているのか分からない部分は、安易に保留にして見過ごせないものではないのか?
それをネターに意見すると、ネターは「この手の新型が出る、悪質エイリアンが侵入する。それは、毎日起きている、アメリカでは人間の誘拐もある、いちいち事細かに追跡しているわけには行かない、物事の重要度に応じて動くしかない、鉄男が複製されていない事の方がはるかに意味があるし、大きな成果だ。
日本はアメリカに比べれば、遥かに安定していて平和なはずだ。だが、もしも何かあるとすれば、要人に化けて本人を殺し、そのものに成りすましてしまう事だ、そこだけ気を付けていればいい」と、時代劇の裁きのような事を言う。細かい事は気にしない、いや気にしてはいられないのが現実らしい・・・。ネターの、モノの見方ははるか上から見下ろすやり方、大局的と言えば聞こえはいいが、些細な不注意で大きな事故になる可能性がある。対して自分はいつもビクビクしているネズミのようだ。いつも辺りをキョロキョロ確認していないと不安でいたたまれなくなる、単に気が小さいだけなのだろうか?といつも自問していた、自分のより若いはずのイシカワの方が「度胸があって肝が据わっている」と感じる事は多かった。

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