著者:白取 春彦
ページ数:127

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本書は日常生活の中でブッダの智慧を実践し、悟りに至ることを目的としている。
 誰でも、悟ることが可能なのだ。
 悟りはずっと誤解されてきた。その大きな誤解には二種類ある。
 一つ目の誤解は、悟りを得れば神通力、すなわち特別な超能力のようなものが備わるというもの。
この誤解は、ブッダという尊称で呼ばれたゴータマ・シッダールタの用いた比喩や形容の表現を、ついに悟りを経験しなかった弟子たちがそのまま事実としてとらえ、その解釈がさらに拡大したことから生まれた。
 もう一つの誤解は、実際に悟るのは凡人にとってはなはだ困難だというものだ。
 しかし、悟りがそれほど困難なものであるならば、ゴータマ・シッダールタの説いた仏法は最初から多くの人にとって縁遠いものであろう。ゴータマ自身、これは誰にでもできる簡単な方法だと述べたにもかかわらずである。

 解脱、悟り、涅槃、これらの言葉は人がある清々しい状態になったときの表現の一つにすぎない。
それらの言葉の内実は、想像や思惑や怖れをまじえずに物事をありのままに見るようになったということだ。そういう態度で生きるのが悟りの境地である。ただそれだけのことにすぎない。境地とはいうものの、超然とした場所に立つことではない。
 だから、修行によって悟ることなく、また仏教をまったく知らずとも、悟りの境地で生きている人も当然いるわけである。その態度は、物心がつかない幼児と同じである。
 悟りが仏教だけのものであるのならば、普遍的なものではない。普遍的でないならば、人間にとって真実ではない。
悟りはいつの日にか目指すべき遠い究極にあるものではなく、あくまでも出発点である。
そこから善の実現に向かって生きるのが本道である。だから、ゴータマ・シッダールタは善く生きること、人間倫理を重ねて説いたのだった。

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