著者:岡部陽二
ページ数:198
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驚いたのは、このエッセーを読んだ娘が、父親が体験したこのような苦難をまったく知らず、初耳であったという事実である。小学生の頃の出来事を子供たちに話したことはなかったので、知らないのは当然であるが、これではいけないのではと思い直した。
この反省を踏まえて、満州時代だけではなく生涯にわたっての自分史を、終活の手始めとして、まとめようと思い立った次第である。
自分史の名著である『フランクリン自伝』で、著者はなぜ自伝を書き残すのか、三つの理由を挙げている。第一は「私が用いた有益な手段を子孫に伝える」ため、第二は「老人によくある身の上話や手柄話ばかりしたがる癖を満足させる」ため、第三は「自分の自惚れをも満足させる」ためであるという。余裕たっぷりのユーモアで、自分史の本質を突いている。
自分史とはこのようなものと割り切ってはみたものの、書籍として出版し、ネット上でも公開するとなると、社会的な責任も感ぜざるを得ない。少なくとも生涯の過半を傾注した国際金融については、その生き証人として見聞・実践した出来事を記述するように努めた。客観的な史実に絞った情報としての価値が多少は認められる同時代史的な彩りを添えたいものと考えたからである。
ところが、書きたいことは山ほどあり、取捨選択が難しい。そこで、編集を日本経済新聞出版社にお願いし、日本経済新聞で日銀記者クラブキャップなどを務められた杉本哲也氏より延べ十時間を超えるインタビューを受け、日経事業出版センター山本優子氏に協力を頂いた。両氏に厚く御礼申し上げたい。
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