著者:榑林 茂
ページ数:128

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はじめに

この本は二宮尊徳(天明七年一七八六年誕生、安政三年一八五六年七〇歳死没)の言動について、弟子である福住正兄(マサエ)が記述した「二宮翁夜話(ヤワ)」の抄訳であり、そこから七十ヵ条を翻案したものである。また自分への応用を補足し、研修ノートを付録とした。
現代では尊徳の名前を耳にすることはそれほど多くはないが、江戸時代の幕末期の人で、小田原藩(神奈川県)の農民出身であり、藩を越えて関東中心に藩単位、村単位、一家単位で、六〇〇件を超える家政や農政、藩政を正し、農業生産力を高め、改革に非常な実績を残している。
明治から昭和初期にかけては小学生の教科書に載ったり、学校唱歌になって歌われたりして誰でもが知っている存在であった。関東、東海地方の小学校には正門に、二宮金次郎(以下金次郎)が、薪を背中に背負い、本を読みながら町まで売りに行く姿の像が立てられていたものである。それが、第二次大戦後は意識的にその存在が消し去られている。その理由として、金次郎の勤勉さや主君への忠誠心が、戦争に向けての軍国主義化、滅私奉公などと一緒にされたためである。

□「夜話」の概要

 「夜話」は、題名が示すように囲炉裏を囲んで弟子にわかりやすく語った事柄を、武士出身ではなく農民出身の福住正兄が畏怖の念をもって素直に書き残したものである。元は大沢という苗字であるが、箱根湯元で現在も営業をしている「福住旅館」の養子となっている。
 「夜話」は五巻で長短二三三章からなっている。長いもので四〇〇字詰め原稿二枚ぐらいから短いもので半分ほどである。表現はそのままでもわかるが、元の語感や調子をいかしつつ、現代語風に読みやすくした。読み物としては全編面白いが道徳経済人としての教えを抽出する視点から、その内の七〇ヶ条を取り上げた。原書にはついていないが、抄訳の内容がわかるように、それぞれに見出しをつけた。五巻は明確に分類してないので、次のように内容を四分類した。

一 報徳哲学、 二 報徳思想、 三 報徳実践、 四 報徳技能

一 報徳哲学(一円一元)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・十八ヶ条
 物事の本質論、存在論として、二元論ではなく一元論を説く
(算数にたとえれば、全体系の基礎となる大前提としての公理にあたる部分)
二 報徳思想(安民富国)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・八ヶ条
 社会と自己との関わりにおいて、人と生活の安心安定を基本にする
(算数にたとえれば、公理を組み立てて、問題を解決する指針となる定理にあたる部分)

三 報徳実践(実践主義)
 何事も実践して価値が生まれる
(算数にたとえれば、定理に基づいて、実際の問題を解決する実践にあたる部分)
 三・一 報徳実践 自己啓発・・・・・・・・・・・・・十三ヶ条
      人道と天道の人格的統合である至誠を目指す
 三・二 報徳実践 勤労・倹約・・・・・・・・・・・・・七ヶ条
      勤労;人間鍛錬と資本蓄積のための生産活動
倹約;生活安定と生産・再生産のための資本蓄積
 三・三 報徳実践 分度・推譲・・・・・・・・・・・・・五ヶ条
      分度;生活・事業の安定的基盤となる予算の枠組みを立てる
      推譲;生活・事業の継続的繁栄のための資本を投資する

四 報徳技能(能力主義)
  何事も能力により効果・効率が変わる
(算数にたとえれば、実際の問題を解決する能力にあたる部分)
 四・一 人間 報徳技能 対人力・・・・・・・・・・・・・・・十一ヶ条
      自他共に能力を高めて、人を活性化させる
 四・二 業務 報徳技能 業務力・・・・・・・・・・・・・・・・八ヶ条
      自他共に能力を高めて、業務を遂行する

 夜話の概要を、一 報徳哲学、 二 報徳思想、 三 報徳実践、 四 報徳技能と四分類したが、本書の構成としては、わかりやすさを優先してこの逆の順番とした。もちろん、自分の興味の湧いた章から読んでいただくのがよい。各条文についている数字の意味は、前の数字は巻、後の数字は二三三章の一連番号である。

目次

はじめに
□「夜話」の概要

第一章  報徳技能(能力主義) 対人力 十一ヶ条 自分への応用
第二章  報徳技能(能力主義) 業務力 八ヶ条 自分への応用
第三章  報徳実践(実践主義) 自己啓発 十三ヵ条 自分への応用
第四章  報徳実践(実践主義) 勤労・倹約 七ヶ条 自分への応用
第五章  報徳実践(実践主義) 分度・推譲 五ヶ条 自分への応用
第六章  報徳思想(安民富国) 報徳思想 八ヶ条 自分への応用
第七章  報徳哲学(一円一元) 報徳哲学 十八ヶ条 自分への応用

付録  研修ノート

おわりに
□翻案者から
□原典

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