著者:稲山 巧
ページ数:69
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はじめに
車庫入れが苦手、嫌いという方はとても多いと思います。この本に辿り着いたあなたも車庫入れについて何か悩みを抱えているのではないでしょうか。私は普段、ペーパードライバーを相手に運転を教える出張型のペーパードライバー講習を行っていますが、お客様の中でも車庫入れを苦手としている方は本当に多いと実感しています。車庫入れは1日や2日で出来てしまうような簡単な技術ではなく、どうしても地道な練習が不可欠となります。それ故に車庫入れがなかなか上達しない状況に「自分には車庫入れのセンスがない」と思い込んでしまい途中で挫折してしまうことが多いと感じます。
個人的な意見になりますが、車庫入れに「センス」は関係ないと思います。なぜなら、車庫入れを最初からスイスイこなしてしまうような方に今までに出会ったことがないからです。私は自動車学校の元指導員で今までたくさんの教習生を見てきましたが、どんなに運転が向いていそうな教習生でも後退操作となると面白いくらいに出来なくなります。では、車庫入れには何が必要なのか?それは「知識」と「経験」だと私は信じています。さらに言えば、この「知識」と「経験」は習得する順番も大切で、「知識」を習得した後に「経験」を積み重ねていくのが一番効率的に車庫入れ技術が上達していきます。特に「知識」が備わっていない状態で見様見真似で練習をしてしまうと全く車庫入れ技術が上達せず、それが「自分には車庫入れのセンスがない」という勘違いに繋がってしまいがちなのです。
大切なことなのでもう一度言いますが、車庫入れに「センス」は関係ありません。まずは車庫入れに必要な「知識」を身に付けることから一緒に始めてみませんか。
運転教室スタートライン
稲山 巧
【目 次】
はじめに1
第一章 なぜ車庫入れは難しいのか4
(1)四輪車の構造的な問題点5
(2)四輪車と自転車との関係性6
(3)運転免許制度の問題点7
第二章 後退操作のメカニズム9
(1)前輪の向きと動き方10
(2)ハンドルの回転数12
(3)内輪差と外輪差14
(4)後退時の安全確認18
第三章 効果的な練習方法21
(1)ハンドルをまっすぐの状態に戻せるように22
(2)狙った場所にバックできるように23
(3)直角バックの曲がり具合を掴めるように26
(4)幅寄せができるように28
第四章 車庫入れの練習をする上での注意点31
(1)車庫入れの練習をする場所32
(2)輪止めについて33
(3)練習相手は選んだ方が良い34
(4)車庫入れはすぐに上達はしない35
第五章 車庫入れの手順36
第六章 車庫入れの応用テクニック44
(1)特殊な駐車場での駐車方法44
(2)有料駐車場での車庫入れ47
(3)立体駐車場での車庫入れ49
おわりに51
第一章 なぜ車庫入れは難しいのか
みなさんは、そもそもなぜ車庫入れは難しいのかを深く考えてみたことはあるでしょうか。一般的な普通乗用車の場合、車輪が4つあって、ハンドルを回せば前輪の向きが変わり、車が曲がっていくというとてもシンプルな乗り物です。車輪の数や車体の大きさなどを除けば動く仕組み自体は子供の頃から乗っている自転車と何ら変わらないですよね。私が自動車学校で指導員をやっていた頃も、車を発進させて場内コースのカーブを曲がることくらいは運転の練習を始めた初日の教習生でもある程度できるようになります。
それが後退操作となると一気に頭が混乱してどっちにハンドルを回せばいいのか全く分からなくなってしまいます。全く同じ乗り物なのに前進させるのと後退させるのとではどうしてこんなに難しさが違うのか不思議に思ったことはありませんか?そこには後退操作を難しくさせる要因が存在し、その要因を解明していくと車庫入れをマスターするために何が障害となっているのかが自然と見えてきます。
(1)四輪車の構造的な問題点
車庫入れを難しくさせる要因の一つに、まずは四輪車の構造的な問題点があります。その問題点の1つ目としては、運転席が前向きに付いていることです。当たり前な話ですが、車を後退させる時には下半身は前に向けた状態のまま上半身だけを後ろにひねって操作しなければなりません。顔は後ろを見ていてもハンドル操作やペダル操作などは前向きのまま操作することになるので、どうしても頭の中で混乱しやすくなってしまうのです。男性の方だとネクタイをする機会が多いと思いますが、ネクタイを締める時も自分では難なくできることも他の人にネクタイを締めようとすると向きが分からなくなってしまう感覚に近い気がします。また、ドアミラーやルームミラーについても同じことが言えますが、映っている景色は実際の景色が反転して映っているのでこれまた混乱しやすいのが特徴です。
2つ目の構造的な問題点としては、四輪車には運転席から見えない部分(死角)がとても広いということです。一般的な普通乗用車の場合、前方の死角は約5メートル(普通乗用車1台分)になります。それに対して、後方の死角は約10メートル(普通乗用車2台分)にもなります。後方の死角の範囲が倍近くになってしまうのは、運転席が前寄りに付いていることが原因で、それが後退操作の難しさに繋がってしまっています。最近は車の周囲の全方向がカメラで見渡せるバックモニターやハンドルを回してバックした時にその進む方向が表示される機能が付いて車なども登場していますが、まだまだ未発達な部分もありますので四輪車特有の弱点をよく理解しておくことが重要と言えます。
(2)四輪車と自転車との関係性
ある調査によると、日本人の中で自転車に乗ることができない人の割合は100人に1人というデータがあります。世の中には人々が移動手段として利用している乗り物がたくさんあります。自転車、原付、オートバイ、車、タクシー、トラック、バス、電車、船、飛行機。数ある乗り物の中でも、人生で初めて運転する乗り物は自転車になるのではないでしょうか。幼稚園や保育園の頃から乗り始めて、車の免許を取るまではほぼ毎日自転車に乗っていたという方も多いと思います。小さい頃から当たり前のように乗っていた自転車が四輪車の運転にも大きな影響があるのは当然の考えだと思います。
この第一章の冒頭でも述べましたが、車輪の数と大きさを除けば四輪車と自転車の動き方はほとんど変わりないです。特にハンドルで前輪の向きを変えて動かすという部分が似ていますので、生まれて初めて四輪車を運転する人でもハンドル操作に関しては説明しなくても直感的に操作することができます。では、なぜ後退操作は上手くいかないのでしょうか。それは自転車に乗っている時に自転車を後退させるような場面がほとんどないからです。自転車に乗っている時のことをイメージして欲しいのですが、自転車は車体がとても細いので狭い道でも前進だけでだいたい通り抜けられますし、駐輪場も前進で停めるタイプばかりですよね。自転車を後退させる経験が少ないことこそが四輪車を運転した時に後退操作が上手くできない大きな原因となっているのです。
(3)運転免許制度の問題点
遠い昔に免許を取った方は忘れてしまったかもしれませんが、自動車学校では「車庫入れ」が教習の必修項目や卒業検定の課題に入っていません。その代わりとなるものに「縦列駐車」と「方向変換」というバックの課題があります。この二つはいずれも後退操作を練習する課題ではありますが、車庫入れの操作とは微妙に異なりますのでそれをそのまま車庫入れに応用させるのはなかなか難しいです。
さらに問題なのは自動車学校の教習方法です。自動車学校によって少し差はありますが、この縦列駐車と方向変換の練習する時限(1時限50分)は3〜4時限と明らかに足りていないため、いわゆる「目印教習」という教習方法に陥りやすいです。目印教習とは要するに自動車学校のコースでしか通用しないその場しのぎの方法を教えることを意味していますが、もちろん実践では全く役に立ちません。
ただ、私も自動車学校の元指導員なので少し弁解させて頂きたいのですが、自動車学校も目印教習を好んでやっている訳ではありません。自動車学校の教習は自由自在にカリキュラムが組めるものではなく、卒業させるまでにこなさなければならない項目や練習できる時間にかなりの制限があります。その結果、必然的に後退操作の練習にかけられる時間が短くなってしまい、既定の時間内で教習生を卒業させられるレベルまで仕上げるには目印教習をやらざるを得ないのが現状なのです。
【プロフィール】
稲山 巧
愛知県内の自動車学校で10年以上指導員として勤務しておりました。
お客様の立場になって、分かりやすい丁寧な講習に心掛けております。
<経歴>
1980年生まれ 愛知県小牧市出身
H14.3 名古屋経済大学経済学部消費経済学科 卒業
H14.3~H24.10 株式会社星が丘自動車学校 勤務
H26.10~H30.4一般財団法人愛知県交通安全協会一宮自動車学校 勤務
H30.6 運転教室スタートライン 開業
<資格>
普通自動車指導員資格/普通自動車検定員資格/中型自動車指導員資格
シリーズ一覧
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