著者:山崎雅弘
ページ数:27
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これに対し、南オセチアを実質的な保護下に置いていたロシアは、即座に正規軍を同地に派遣して、グルジア軍部隊との間で激しい戦闘を繰り広げた。間もなく、南オセチアの紛争はグルジア西部のアブハジア自治共和国にも波及し、グルジア軍とロシア軍はここでも陸と海の両方で激戦を展開した。
このグルジア紛争(または第二次南オセチア紛争)は、一九九一年末に巨大国家ソヴィエト連邦(ソ連)が崩壊してから初めて発生した、旧ソ連構成国同士の軍事衝突だった。紛争自体は、わずか五日間で終結したこと、そして同時期に開催されていた北京オリンピックに注目が集まったことから、国際的な関心はさほど高まらなかった。
だが、グルジアの南オセチアとアブハジアで発生した軍事紛争は、規模こそ小さかったものの、その後の世界情勢に及ぼした影響は、決して小さくはなかった。なぜなら、このグルジアが起こした紛争は、旧ソ連時代の末期に実現した「東西冷戦の終結」という短い時代の終焉と、さらにアメリカとロシアによる「新冷戦」の幕開けを告げる事件でもあったからである。
それでは、グルジア紛争はいかなる理由で発生したのか。ロシアはなぜ、グルジア領であるはずの南オセチアとアブハジアを、実質的な保護下に置いているのか。そして、二〇〇八年八月のグルジア紛争において、グルジア軍とロシア軍はどんな部隊と装備で戦い、前線での戦闘はどのような様相を呈していたのか。
本書は、かつてのソ連構成国であったロシアとグルジアの間で発生した軍事衝突と、そこに至るまでのグルジアおよびカフカスの歴史を、俯瞰的にたどる内容の概説書です。2015年9月、学研の雑誌『歴史群像』第133号(2015年10月号)で、B5判12ページで発表されました。
ロシアの指導者ウラジーミル・プーチン大統領は、アメリカとNATOの旧ソ連構成国への波及に猜疑心を抱いており、前任者ボリス・エリツィンの時代にはロシアとの関係が比較的良好だったグルジアを、アメリカとNATOに接近しているとの理由で、敵視する姿勢をとり続けました。こうした動きは、現在(2022年2月)における、ウクライナに対するプーチンの姿勢とも共通する面が存在します。プーチンという絶大な力を持つロシア大統領の対外政策を知る上で、参考にしていただければ幸いです。
【*1】「グルジア」という国名は、ロシア語表記での旧ソ連時代の呼称で、グルジア語での呼称は「サカルトヴェロ」。国連加盟193か国のうち、約170か国が同国の呼称として、キリスト教の守護聖人ゲオルギウスにちなむ「ゲオルギア(英語表記ではジョージア)」を用いているとされ、日本も2014年10月21日のギオルギ・マルグベラシヴィリ大統領の訪日を機に政府機関での表記を「ジョージア」に切り替えた。ただし本書では、日本での一般的知名度と紛争発生時の呼称、旧ソ連時代からの歴史的経緯を重視する観点から、「グルジア」表記を使用している。
《目次(見出しリスト)》
◆二〇〇八年北京五輪の陰で行われた紛争
《ソ連時代末期のグルジア紛争》
◆ソ連建国当初から存在した紛争の火種
◆グルジアにおける「二重構造の民族運動」
◆ソ連崩壊後のグルジア情勢
《米露対立の最前線となったグルジア》
◆プーチン政権の誕生とグルジア・ロシア関係の悪化
◆グルジア政変「バラ革命」と親米政権の樹立
◆ロシア編入を望む南オセチアとアブハジア
《第二次南オセチア紛争の勃発》
◆グルジア軍の南オセチア攻撃開始
◆中心都市ツヒンヴァリをめぐる攻防戦
◆アブハジアに飛び火した紛争
《グルジア紛争がもたらしたもの》
◆グルジア軍の撤退と停戦
◆南オセチアとアブハジアの現状と将来
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