著者:千川ともお
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ここに出てくる鉄道の駅舎や線路は、カンボジアの北線に沿っている。タイとカンボジアの国境で、よみがえりつつあるカンボジアの鉄路でありつつ、1930年ごろからの鉄道の設備や部品なども出てくる次第だ。それぞれが、ヨーロッパからの物であったり、アジアからの物であったりする。目の前にある鉄の塊が、驚きの産物である。鉄道の設備が、色々な国からの物であったりするからだ。
鉄の部品に刻まれた年代が、1930年ごろから1950年ごろの物もあれば、さらに1970年、1980年ごろの物もある。これらは、その後2000年、2010年ごろを経て断続的に、今日まで眠り続けざるを得なかったわけだ。で、鉄路と駅舎に関わる遺産であり、今も存在するのだ。
仮想の博物館にあっても不思議ではない、野放図にされた鉄道の設備はよみがえることはない。だが、再スタートを遂げる直前の北線鉄道の足跡をたどると、熱い思いに駆られる。そのことを国境の線路の修復工事を見ていると、胸が熱くなってくるのだ。
それにしても今日の北線鉄道の風貌は、1990年ごろの鉄道の姿に見え、停止したままだ。また、1970年代の内戦のころの鉄道の風景と歩みを、むき出しに語っているようにも見える。だが、レール沿いのゴミがはてしなく続いていても、途方もなく鉄道の重量感が押し寄せてくるのだ。レールが1930年ごろに敷設された様子が、猛烈な印象として、実体験もない筆者に無造作に身勝手に回顧してくるのだ。そこで、「幻の蒸気機関車が、ここにあり!」という強烈な思いにさせられるのだ。

そこで、北線鉄道が完全に修復される風景を見る前に、何とか今ある残された貴重な設備を形として残せないものかという気持ちに襲われたわけだ。ただ、今はっきり言えることは、機能していない停止したままの北線鉄道の存在を、確かなものとして、残せないものだろうかということだ。
疑いもなく、崩れかけた駅舎やレールを見た途端に、誰もが目をそむけてしまう。そのくらいに今日の鉄道の風化した風貌にあきれてしまう。同時に、鉄道の橋やレールが錆びついてしまっている。だから、その跡形の鉄道の無価値さが、そのまま人々の鉄道への無関心さと比例してしまっているわけだ。
結果、鉄道に乗ったことがない人々が高齢者の中にたくさん出てきた。また、若年層にとっては、鉄道の存在をたずねても、返答に困ってしまう人々が多くいることになる。
それでも、トラス鉄橋、ポイント、駅舎、ホーム、改札口、切符売り場、レール、小さなレンガ造りのアーチ橋、セメント橋、枕木、給水塔、留置線、詰所、機関車、機関車庫、穀物倉庫、展示された蒸気機関車などがある。
当然、鉄道が走るために必要な物が今も残されているのである。

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