著者:同志社大学 良心学研究センター
ページ数:202

¥100¥0

 本書は「同志社精神」をより多くの人に知ってもらいたいと願い、編集されたものである(「同志社精神」と「建学の精神」の違いについては第三章冒頭を参照)。本書を読んでいただくと気づかれるように、同志社精神は同志社に固有の源泉(オリジン)を持ちつつも、同志社という枠を超えて、広く社会に訴える普遍的な問題提起をしてきた。そうした精神の多くは、同志社の中だけにとどめておくには、もったいないほどの挑戦的な輝きを今なお有している。
 しかし、同志社オリジンの魅力を味わい、それを生きた精神として現代に発揮させるためには、その精神を日常の中で担い、共に考え、実践することが欠かせない。そうした目的を果たすための一助として、本書は「同志社精神を考えるために」必要な素材をできるだけコンパクトに、しかし、できるだけ多彩な形で提供しようとしている。
 同志社精神は多くの人によって継承され、実践されてきたが、それを際立たせているのは、創立者・新島襄である。本書では、新島の言葉を「生きた言葉」として受けとめるために様々な工夫を凝らしている。「生きた言葉」とは「人を生かす言葉」である。古びた家訓のように新島の言葉を掲げるのではなく、今の時代にあって「人を生かす言葉」として、新島の言葉に向き合うことはできないだろうかと自問自答しながら、本書の各部は執筆されている。
 同志社精神は歴史的オリジンを持つが、それは過去に固定化されたものであってはならないだろう。もしそれがいくつかのキャッチフレーズとして標語化され、固定化されているとすれば、それを流動化させ、その生命力を回復させるべきである。学べば学ぶほど、同志社は途方もなく貴重な宝を有していることに驚かされる。問題は、その宝が埋もれたままになっていることだ。それゆえ、本書は「お宝」探しのガイドブックという役割も果たそうとしている。
 同志社は二〇二五年に一五〇周年を迎えることになる。大事な節目を記念するための諸行事が大切なことは言うまでもないが、もっとも大事なのは、次の五〇年を展望することのできる大きなビジョンを示し得るかどうかではないか。世界が抱える困難を直視しながら、しかし、安易に時流に迎合することなく、私学・同志社の特性をいかんなく発揮できるビジョンを形づくるために、同志社精神の再確認・再発見は不可欠である。その目的に少しでも資することを願い、本書は次のような構成となっている。
 第一章「新島襄の生涯と思想」では、新島について初めて知る人にもわかるように、新島の略歴を記している。この章は、彼の生涯を通じて、どのようにアイデンティティの変化が起こったのか、また、彼の言葉や思想がどのように形成されてきたのかを重点的に扱い、続く章に対する導入となっている。
 第二章「新島襄の言葉」では、数多く残された新島の言葉の中から、特に重要なものを選び出し、便宜的に五つのカテゴリー(キリスト教主義・自由の精神・人間観・教育論・大学観)に分類している。言葉を列挙するだけでは、ポイントをつかみづらい場合があるので、それぞれの言葉の後ろに要点や論点を短く記している。
 第三章「同志社精神の背景とその現代的意義」では、第二章で取り上げた新島の言葉の「背景」を記すことにより、より深くその言葉を味わうことができるようにしている。また、歴史的背景の叙述にとどまらず、それぞれの言葉がどのような「現代的意義」を持ち得るのかについても記している。それぞれの言葉から引き出すことのできる多様な現代的意義を、読者自身が考える際の手がかりとなることを願っている。
 第四章「同志社精神を育んだ人々」では、新島から直接の薫陶を受けたり、彼の思想の影響を受けたりした人物六名(柏木義円、留岡幸助、安部磯雄、波多野培根、山室軍平、井深八重)を取り上げている。同志社精神が新島一人によって作られたのではなく、彼に続いた、その精神の体現者によって育まれてきたことがわかるだろう。精神は実践されてこそ、その真価を発揮する。我々がそこに連なる者となるために、どうすればよいのかを考えるための手がかりを、この章から得て欲しい。
 第五章「新島襄と聖書」では、新島の言葉や思想を理解する上で重要な聖書の箇所を取り上げている。「諸君よ、人一人は大切なり」といった、よく知られた新島の言葉も、聖書と重ね合わせることにより、その深みへと分け入ることができる。
 なお、本書全体を通じて随所に聖書の引用があるが、それらはいずれも『聖書 新共同訳』(日本聖書協会)からの引用である。初学者にもわかりやすいよう「新約聖書」「旧約聖書」を引用箇所に加えている。学術的には中立性の視点から「旧約聖書」を「ヘブライ語聖書」と呼ぶことが多いが、本書では『聖書 新共同訳』に依拠していることから「旧約聖書」としている。
 また、文中で【○月○日】とあるのは、良心学研究センター編『新島襄365』における日付を指している。適宜参照していただき、理解を深めていただきたい。
 本書の読者が、同志社精神に触れ、その価値に気づき、そのよき理解者となるだけでなく、よき実践者となってくだされば、望外の喜びである。
 
2023年2月
同志社大学 良心学研究センター長 小原克博
※以上、本書「はじめに」より
 
【執筆者一覧(五十音順)】
沖田行司(同志社大学 名誉教授、びわこ学院大学 学長)
川嶋四郎(同志社大学 法学部 教授)
木原活信(同志社大学 社会学部 教授)
神田朋美(同志社大学大学院 神学研究科 博士後期課程 学生)
小原克博(同志社大学 神学部 教授、良心学研究センター長)
中村信博(同志社女子大学 学芸学部 特任教授)
林田 明(同志社大学 理工学部 教授)
深谷 格(同志社大学大学院 司法研究科 教授)
和田喜彦(同志社大学 経済学部 教授)
 
イラスト 具 本曙(ぐ・ぼんそ) 同志社大学大学院 神学研究科 博士前期課程 学生
 
※本書は2023年2月に刊行された、同志社大学良心学研究センター編『同志社精神を考えるために』の Amazon Kindle版です。Kindle版のために、一部表記やレイアウトをあらためています。上記の執筆者肩書きは2023年当時のものです。

シリーズ一覧

  • 同シリーズの電子書籍はありませんでした。

 

  Kindle Unlimitedは、現在30日間無料体験キャンペーンを行っています!

この期間中は料金が980円→0円となるため、この記事で紹介している電子書籍は、すべてこのKindle Unlimited無料体験で読むことが可能です。

Kindle Unlimited 無料体験に登録する