【無料で読める】データから読み解く宍道湖の水質: 宍道湖の自己制御性によるレジームシフト

湖沼の水質管理は発生源対策が基本である。発生源には三種類ある。周辺河川、湖底に堆積した有機汚泥、降雨中の越境汚染である。越境汚染は我々の手では如何ともし難いが、幸いにして、外乱のレベルに止まっている。
湖底に堆積した有機汚泥には周辺河川起因のものと湖沼の生物に起因するものがある。我々が利用する魚貝類や海藻類の量の影響は無視できない。
2012年8-10月、宍道湖でアオコが大発生した。湖底の有機汚泥の分解が急激に進み、水質は異常値を示していた。2013-16年、アオコの発生は観測されていない。代わりに水草が繁茂するようになった。シジミの漁獲量は24年の1700 tを底に4000 t 台まで回復した。宍道湖は湖自身の自己制御性により藍藻類から珪藻類優占へとレジームシフトしたのである。Cl濃度上下層差（８－10月平均値）の発生確率は340年に一度と推算された。17年に局地的発生の報告があったが、規模は小さい。その後も、中小河川の河口付近にアオコ発生が散発している。発生したアオコは湖底に散らばって枯死し、有機汚泥として堆積される。そしてあるレベルまで堆積した段階で、2012年8-10月のような急激な分解がおきればアオコ大発生の、再発の危険性がある。なお、シジミの漁獲量が4000 t台で停滞している理由は、シジミの生育に適している浅瀬が、アオコに奪われているからであろう。
干拓淡水化計画が中止となったことで宍道湖は救われた。しかし、中海には、一部、実施された浚渫・埋め立て工事の後遺症が残っている。流れが淀むようになった湖底は酸欠になり、嫌気性バクテリヤによる硫黄分を含む有機汚泥の分解で硫化水素が発生する。この辺は、太古の時代、火山地帯だったので掘り下げられ火山灰質が露出した湖底部分からも硫化水素は発生する。絶滅した赤貝は養殖による復活が試みられているが苦戦している。対策は原状復帰だ！
宍道湖の水質改善の諮問に答えるべき山室「委員会」の答申は的外れだった。委員会活動の総決算的位置付けのシジミの漁獲量の予測に関するシミュレーション・ソフトは、2016年の陸水学会誌に掲載された山室教授を筆頭著者とする「6月の水温と翌年のシジミ漁獲量」の相関式が全くの誤報だったことから信頼できない。それ以上に問題なのは、筆者の誤りの指摘に対して当人、陸水学会、そして東大の研究に関する倫理委員会が黙殺する側に回ったことである。民主主義国家・日本の学界におきた不条理を看過できないので敢えて紹介する。