著者:駒形 裕
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「青丹(あおに)よし 寧楽(なら)の京師(みやこ)は 咲く花の にほふがごとく 今盛(いまさか)りなり」

歌の意味は、「奈良の都は咲き誇る花が色美しく映える様に、今が繁栄の真っ盛りである」 

701~710年、大宝律令(たいほうりつりょう)の制定から、平城遷都(へいじょうせんと)の時代が、社会の経済基盤を揺るがす様な変革を迎える。 大化改新以後、壬申(じんしん)の乱(らん)から天武天皇(てんむてんのう)、持統天皇(じとうてんのう)、文武天皇(もんむてんのう)、元明天皇(げんめいてんのう)の時で、中央集権国家の律令体制の形成期にあたる。 文武天皇(もんむてんのう)の時代に大宝律令(たいほうりつりょう)を制定・公布し、元明天皇(げんめいてんのう)になり藤原京(ふじわらきょう)から平城京(へいじょうきょう)へ都を遷都すると言う国家の威信をかける一大プロジェクトが組(く)まれる。 国家の体裁を整えたいと言う夢の実現だが、果たしてその時点で国家に新しい都を造ると言う、経済的余裕はあったのか。 少なくても律令国家として、古代の大王の様に専制的な行動はできない。 元明天皇(げんめいてんのう)の下(もと)で平城京遷都(へいじょうきょうせんと)を遂行する為に、国家に命を捧げた男が藤原不比等(ふじわらのふひと)だ。 大化改新の立役者・藤原鎌足(ふじわらのかまたり)(中臣氏)の息子と言う文句ない名門の家に生まれて、明るい将来が待っている筈の男に、大きな壁が立ちはだかる。 中臣一族(なかとみいちぞく)は、壬申(じんしん)の乱(らん)で敗者の近江朝側(おうみちょうがわ)に味方し、勝者となった大海人皇子(おおあまのみこ)(天武天皇(てんむてんのう))から一族郎党が厳しく排斥される事になったからだ。 逆境に晒された藤原不比等(ふじわらのふひと)は任官さえ許され無い。 あらゆる伝手(つて)を使い藤原不比等(ふじわらのふひと)は苦労して、役人としての最下位の登用試験を受ける事ができた。 その時点では誰が藤原氏の栄華の時代が来ると予想できたか。 藤原不比等(ふじわらのふひと)を助けて内助の功を発揮するのが、後の夫人となる県犬養三千代(あがたのいぬかいみちよ)だ。 藤原不比等(ふじわらのふひと)は元明天皇(げんめいてんのう)の意向を強く汲み、藤原京(ふじわらきょう)から平城京遷都(へいじょうきょうせんと)への莫大な経費を捻りだすべく試行錯誤する。 結果として、政府が名目貨幣(めいもくかへい)を発行し物々交換から貨幣流通経済への転換を図り、経済改革に取り組む。 今なら貨幣流通経済は当たり前の事だが、当時の貨幣は、銀そのものが持つ量目(りょうめ)(重さによる価値)貨幣で、市場(いちば)における交換価値が決定されていた。 藤原不比等(ふじわらのふひと)は、銀(ぎん)の量目(りょうめ)による貨幣を廃止して、政府が市場価値を保証する名目貨幣(めいもくかへい)を発行し、貨幣そのものに実質価値(じっしつかち)はなくても、政府が責任を持って保証する交換価値を約束し、社会に大きな変革を求めた。 こうして政府は銭貨(ぜにか)に名目価値(めいもくかち)を付加し、発行に踏み切る。 官民の俸禄(ほうろく)、季給(ききゅう)(給与や賞与)、官位を与える為の献金、租税などを政府発行の銭貨(ぜにか)「和同開珎(わどうかいちん)」で済ます事を指定した為、発行時点の政府の利鞘(りざや)は莫大(ばくだい)になった。 藤原不比等(ふじわらのふひと)は利鞘(りざや)を平城京遷都(へいじょうきょうせんと)及び建設の資金に回し、全ての建設資金・労務費・経費を銭貨(ぜにか)「和同開珎(わどうかいちん)」で支払った。 新貨幣(しんかへい)を社会に浸透(しんとう)させるのが困難を極め、貧しい人々の中から苦し紛れに私鋳銭(しちゅうせん)(贋金(にせがね))を造る事が横行(おうこう)し、健全(けんぜん)な貨幣流通経済(かへいりゅうつうけいざい)拡大を夢見た政府に取って、公定価格を守らせるどころか市場(いちば)の商品価格が高騰し経済を破壊(はかい)しかねない現実(げんじつ)が待(ま)っていた。 平城京遷都(へいぜいきょうせんと)と言(い)う大事業(だいじぎょう)を挟(はさ)みながら、遷都の政府責任者・藤原(ふじわら)不比等(ふひと)、和銅を発見した山師(やまし)(官人)、貧しい社会が生んだ歪みの贋金作(にせがねつく)りなどが、それぞれの人生を通(とお)して、銭貨(ぜにか)「和同開珎(わどうかいちん)」が奈良時代(ならじだい)の幕開(まくあ)けにもたらす歴史(れきし)の流れの一齣(ひとこま)を紐解(ひもと)く。

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