著者:小田村寅二郎
ページ数:450

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はしがき(一部)
 日本では、そのむかし神武天皇が國を肇められてから今に至るまで、二千六百三十三年の歳月*が数へられてゐる。(本書の初版、昭和四十八年でのこと)
 この間、百二十四代にわたって歴代の天皇方が、つぎつぎに皇位を受け継いで来られたが、その多くの方々は、つねに「和歌」に親しまれ、しかもすばらしい“歌人”であられた。しかし、このことについては、どういふわけか国民のあひだによく知られてゐない。それは、たいへんに残念なことであり、いつまでもそのままにしておくべきことではなからうと思ふ。

 世に“文化遺産”とよくいふが、歴代の天皇がたが数へ切れないはどの「和歌」を遺してをられるのであるから、日本人にとって、これに勝る“文化遺産”はなからうと思ふ。もともと世界の人びとが多種多様な文化遺産の中でとくに大切にして来たのは、文字に書かれた過去の文献であった。それは、むかしの人たち――祖先たち――が、どのやうな物の考へかたをして生きてゐたのか、それを直接にわれわれに知らせてくれるからにほかならない。しかも、文字に書かれたこの種の“文献資料”の中では、とくに「詩歌」が大切にされてきた。詩歌は、むかしの人びとの赤裸々な心情を、生き生きと現実に甦らせ、味ははせてくれるからである。いまの日本では、ともすると文化遺産とは書画・骨董・建築・造園などのやうに、日に映り、形のあるものとばかり思ひ込み勝ちあるが、「ことば」とその「ことばに宿る“心”」こそは、実にかけがへのない“文化遺産”ではあるまいか。

『歴代天皇の御歌―初代から昭和天皇まで二千首』と題した本書には、天皇の御人数で九十一方、御歌の数で二、〇八一首*を、厖大な量の御歌の中から編者両名が不徳・浅学をも省みず、謹んでお選びし、ここに集録させていただいたものである。御詠草の総数(明治天皇・約十万首、靈元天皇・約六千首、後柏原天皇・約四千首、をはじめ、編者が知りうる限りで一千首以上を今日に残されてをられる方々が、御十三方もおいでになられること)から見ると、ここに編した御歌の数は、ごくその一部分に過ぎないことになる。(*増補改訂版での集録数)
 しかしご覧いただければお判りになるやうに、どの御歌一つを選んで聲を出して拝誦してみても、作者であられる天皇のお心の籠った“やまとことば”が生き生きとしたリズムに乗って、格調高く響いてくるものばかりである。お喜びのとき、お悲しみのをり、また、国を憂へられるあまり、さらには、つねに国民を慈しまれるにつけ、ご祖先のみたまをお偲びなされるにつけて、その折々のさまざまな御心懐が、時に、はげしい御心の律動を伴って、読む者の心の底ひにしみじみと伝はってくるやうである。遠い遠いところに居られるやうに感じてゐた御歴代の天皇がたが、御歌を拝読するわれわれの目の前に、身近かにお姿を現され、お聲をかけてくださるやうな気さへしてくる。「詩歌」とはまことに不思議なものであり、とくに「和歌」を介しての作者と読者とは時空の隔りを超えて心一つに通ひ合ふことができさうである。

「神武天皇から昭和天皇までの御歌を、できるだけ沢山に、そして手ごろな一冊の本にまとめて、青年・学生諸君とともにつねに座右にそなへ、ときには小脇にも抱へて、折にふれての研鑽に使へたら、日本歴史がどんなにか綜合的に把めもしようし、天皇のことも、きっと判りやすく親しみ深くなるのだが……」
と、ここ数十年にわたって友らとともに翹望(ぎょうぼう)してきた悲願が、――さうした書物が戦前戦後を通してなかなか見当らなかったので――ここにやうやく実現の運びに至ったのは、何と申しても嬉しいこと、有難いことである。
 恐らくこれからの日本では、天皇制論議が活発に繰りひろげられるであらうと思はれるにつけ、本書に集録申し上げた御歴代の天皇がたのすばらしい御歌のかずかずと各時代の御治世についての拙い歴史解説とが、それらの論議に潤ひを与へ、生きた素材を提供することにでもなれば、編者両名にとって望外の喜びである。

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