著者:森井章太郎
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「なぜ、神武が初代天皇であるのか」を答えることができるだろうか。神武は日向に天降った邇邇芸命の子孫だとされる。天孫を誇りとし、大和に入るまで日向の地で先代に続き歴史を築いて来たにもかかわらず、邇邇芸命たちを差し置き、神武は初代天皇となった。しかも本拠の日向を捨て、見ず知らず地「大和」においてである。
日本の歴史は天皇家の歴史と云ってよい。そして、神武が東征することで、初代の天皇となり、そこから皇室の歴史は始まる。まさに皇国史観はこのような考えのもとにある。この歴史認識が正しいのであれば、古代史研究は、邪馬台国にせよ、倭の五王にせよ、神武東征から始まる歴史の上に成り立っていることになる。しかし、仮に東征に対する解釈が違っていたとすれば、その後の歴史展開もまったく違うものになるだろう。
本書はまさに日本の歴史のスタート地点と「神武東征」というイベントを徹底的に考察し、その到達した結果からあらゆる古代史研究が立つべき土俵となる「規矩準縄」を構築することを意図したものである。
古代史の考察に於いて、まず考えるべきは、記紀だけが「列島史」ではないという客観的事実である。その視点から眺めるなら、記紀の描く歴史は我が国の歴史のほんの一部しか伝えていないことが見えてくる。同様に神武東征の記事は神武個人という非常に狭い世界の閉ざされた記録であるとわかるだろう。そこから見える結論は意外なものである。いや、意外ではなく色眼鏡なしに記紀を読み解けば当然見えてくる結果だったのかもしれない。
神武東征から見えた実相は、神武は倭国内の政権抗争に駆り出された一武将に過ぎなかったという事実であった。つまり我が国は縄文期より本州中央部にその政府機関を置く「倭国」という国家によって統べられており、神武東征は倭国で何度となく発生した権力争いのひとつに過ぎなかったのである。
この結果は、恐らくこれまでの歴史認識を根底から揺るがすものになる。当然、天皇家の歴史も一から見直すこととなるであろうし、また、皇国史観への対抗案として市民権を得る九州王朝説のような、空論も成り立つ余地を失う。
それほどに重要な意味を持つ結果を本稿は示したと言える。そして、矛盾にまみれたこれまでのすべての説は本書の誕生を以て駆逐されるだろう。

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