著者:septenco
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腕利きの暗殺者で有数の魔法使いである君の元に、一件の新しい依頼が舞い込んだ。依頼人は鮮やかな赤いローブに身を包んだ太った男。男はテーブルの上に君の頭ほどの大きさもある金貨がぎっしりと詰まった麻袋をどしんと載せると、開口一番にこれと引き換えに自分の商売敵「クランバー」を殺してほしいと頼み込んできた。君がとりあえず落ち着くようにと諭すと、男は少し照れたように笑い、君の向かい側に腰掛けて自己紹介した。
依頼人の男は君の住む街・バモーラの西方にある混沌と悪の権化であるイグール卿が支配するカーボスに住んでおり、そこで宝石商を営んでいるのだが、最近売り上げが芳しくないのだとこぼす。彼の成功を阻んでいるのは、カーボスに最近現れた新参者の宝石商――クランバーだ。この男は最近にやってきたばかりで、つてなど何もないにもかかわらず目覚しい業績を上げているのだという。その男の売り上げが伸びれば、当然競合相手である男は割を食う。男は君にこの礼儀知らずの新参者を殺してほしいのだ、金貨はたっぷり用意しているといって頭を下げる。
君は目の前の太った男に、クランバーの特徴を教えてほしいと頼み込む。しかし太った男は黙って首を横に振る。クランバーは大変警戒心が強く、普段人前に現れるときは毎回必ず仮面をつけており、本当の素顔はほとんど誰も知らないのだという。それならばと君はクランバーの住所を尋ねるが、男はまたしても首を横に振る。クランバーがカーボスに住んでいることは間違いがないのだが、街のどこに住んでいるのかは部下に調査させたが分からなかったのだと彼は話す。また、男はクランバーがかなり優秀な魔法使いであることもわかっている、と告げた。
君は腕を組んで思案する。顔も住所も分からない男を殺すというのは並大抵の難しさではないが、男が出してきた麻袋いっぱいの金貨は非常に魅力的だ。そしてなにより、このような難しい依頼は君の奥底に眠る冒険心をくすぐるのだ。その優秀な魔法使いクランバーとやらが、自分よりも優秀なのか、この目で確かめたくてたまらない。君は結局依頼を快諾する。もし依頼の遂行に失敗した場合は、違約金として金貨30枚を支払うと付け加えて。
あくる日君はカーボスへ向かう。カーボスは君の住むバモーラから見て西側、夜通し歩いてようやくたどり着ける距離にある。カーボスは周囲をギラ広陵地帯という不毛の大地に取り囲まれており、好き好んでゆく人間はほぼいない。さらにカーボスは外部からの侵入者をはねつけるための、周囲を君の背丈の何倍もある金属壁で覆われている。街に入るには、どうにかして北門か南門から忍び込むしかないのだ。君は城壁を半日かけて一周ぐるりとまわり、南門のほうが警備が手薄であると判断する。君は南門の前でキャンプを張り、翌日朝、カーボスの南門に立つ。そして、まずはどのように門番の目を盗んで忍び込むかを思案する。
この街は混沌と悪の権化であるイグール卿が支配しており、古い民謡では1歩踏み込めば追剥にあい、3歩踏み込めば死に直面すると歌われている。すこしでも身の振り方を間違えれば、君はたちまちあの世へと旅立ってしまうであろう! それでは、君の健闘を祈る。
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