著者:神野守
ページ数:33

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 人は、優しくしてくれた相手に好意を持ちます。笑顔で接してもらったり、誉(ほ)められたり、困っている時に助けてもらったら、その人の事が好きになります。

 第九十一話「看板娘」の真紀は、高校を卒業したばかりの十八歳。大きな瞳がチャームポイントの彼女は、容姿の可愛らしさと明るい性格から、誰からも好かれていました。彼女自身が笑顔を振りまいているので、相手も自然と笑顔になります。

 実家のパン屋を手伝い始めた彼女は、社会人になったばかり。両親との関係は、一般の会社のような上司と部下とは少し違うと言えるでしょう。どちらかと言うと厳しい環境ではないように思います。そういう事もあって、人を疑うなんて考えた事もないでしょう。

 店に入ってきたスーツ姿の男性は、大学を卒業して就職したばかりの新入社員。四歳も離れているので、随分と大人に見えたかも知れません。そんな彼から「可愛い看板娘」と言われます。

 彼にしてみれば、見たままの感想を言ったのでしょう。特別な下心はなかったようです。しかし、彼女は違いました。清潔感があって男前の彼に「可愛い」と言われて、一瞬で恋に落ちたのです。

 それから毎日、彼は店にやってきます。おそらくこの店は、自宅への帰り道の途中にあるので、ついでに寄るのは大変な事ではありません。パンが美味しくて気に入ったからやってくると考えるのが普通です。しかし彼女は違いました。自分に会うために通ってくれると思っていたのです。

 そして来るたびに「今日も可愛いね」なんて言われるものですから、勘違いするなと言うのが無理な話です。おそらく今まで何人もの男性から告白されたでしょう。でも、彼女のタイプの人はいなくて交際には至らなかったのではないでしょうか。

 ようやく出会えた理想の人に、彼女の恋心はどんどん膨(ふく)らんでいきます。恋に恋する夢見る少女の妄想は、とどまるところを知りません。

 そんな彼女の初恋も、ある日突然に終わりを告げる事になります。彼女にしてみれば両想いだと思っていたのに、実際はスタートすらしていない恋でした。

 挫折を知らなかった彼女が、初めて味わうほろ苦い体験。こうして少女は大人になっていくんですね。

目次
はじめに
第九十一話 看板娘
第九十二話 歌に込めた思い
第九十三話 濡れたレール
第九十四話 ホステスの独り言
第九十五話 西に向かう旅
第九十六話 会えない二人
第九十七話 眠れない日の独り言
第九十八話 最後のキス
第九十九話 言えなかった言葉
第百話   白い便箋

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